religionsloveの日記

室町物語です。

2020-01-01から1年間の記事一覧

あしびき㉔ーリリジョンズラブ2ー

巻四 第五章 五月上旬の頃だったので、五月闇で何も見えない。約束の刻限となったので、来鑒は黒皮縅の鎧兜に、目結いの鎧直垂を着て、三尺余りの太刀を佩いて現れて、召し抱えていた屈強の古強盗、二十余人とともに完全武装で天害の門に行った。約束してい…

あしびき㉓ーリリジョンズラブ2ー

巻四 第四章 少将の君がこの房で覚然に薫陶を受けていた時は、禅師の君と呼ばれていた。冠者たちにとっては覚然同様に主君なのである。冠者たちは来鑒の前では承知しましたと言って出てきたが、永承房に帰ると、「禅師殿といえば、我々には代々続く主君筋の…

あしびき㉒ーリリジョンズラブ2ー

巻四 三第章 来鑒鑒は自房へ帰ってすぐにところどころの悪党を呼び集めて、「今夜、いささかやらねばならぬことができてしまったのだが、助勢していただけないかな。」と言うと、みな承知して、丑の刻ほどに天害の門の辺りに集合しようと約束した。 その後、…

あしびき㉑ーリリジョンズラブ2ー

巻四 第二章 さて、得業の妻は若君が失踪して以来、大につけ小につけ、自分の思う通り誰憚ることもなく振る舞っていたが、回りまわって若君が帰ってきたと聞いて、ひどく狼狽した。聟の来鑒をこっそり呼んで、「得業殿の子は、落ち着かない方で、この五六年…

あしびき⑳ーリリジョンズラブ2ー

巻四 第一章 このようにしてニ三年が過ぎて、ある時少将が、「かりそめに奈良を出て、何年も音信不通になっている。父得業はどれほど嘆いているだろう。親不孝の非難は免れません。父の今の様子も聞きたいことです。私を連れて行ってくださいませんか。」と…

あしびき⑲ーリリジョンズラブ2ー

巻三 第六章 侍従は得業の手紙を見て後は、悲しみに沈んで寝込んでしまったので、人々はしばらくはそうもなるであろうと思っていたが、次第に体も衰えて、ひどく気弱にばかりなっていくので、律師も、「これはただ事ではあるまい。このような物思いがきっか…

あしびき⑱ーリリジョンズラブ2ー

巻三 第五章 得業は、この稚児以外頼りとする子供もいないので、ただ嘆くばかりで、世間のことにも関わらないで、引き籠っていた。 それを利用して、この妻は、全て自分の思うに任せて、し得たりと、誰が父ともわからぬ自分の一人娘を、お姫様に仕立て上げて…

あしびき⑯ーリリジョンズラブ2ー

巻三 第三章 東南院では、若君が発見されたことを聞いて、急いで出仕させようとしたが、すぐにでも山へ上る準備もあり、あいにく流行り病気にかかっていると称して、僧都の求めには応じなかった。山に付き従う中童子、送っていく者たちの装束とあれやこれや…

あしびき⑮ーリリジョンズラブ2ー

巻三 第二章 奈良に行きつくと、得業はことのほか喜び、「ちょっと人の相談することがあって、白河に行った折に、たまたま幼い人とお会いになったと伺って、よいついでもなかったのでそのままにしておりました。この子がなんの分別もなく、山まで訪ねたのは…

あしびき⑭ーリリジョンズラブ2ー

巻三 第一章 東南院では若君の行方が分からないので、急いで得業の邸を訪ねたが、「こちらにもいません。」と言うので、驚きあきれるばかりであった。これはただ事でないと捜させた。得業はあれこれと心当たりをたどったが思い当たるところはなかった。 とこ…

あしびき㉕ーリリジョンズラブ2ー

巻五 第一章 かくて夜が明けると、奈良中が大騒ぎになった。「来鑒が山法師に討たれたらしい。」となると奈良の大衆も黙ってはいないだろう。一斉蜂起となれば大事、侍従ももう一段覚悟を決めねばと思っていたが、覚然上座の召使の冠者たちが、迅速に得業た…

あしびき⑫ーリリジョンズラブ2ー

巻二 第五章 九月中旬の頃なので、高嶺の強風が雲を払って月もほのかに見え隠れして、夕べに奥深い谷川の岩たたく水音ももの寂しい。鹿や虫の哀しみを誘う泣き音を聞くにも、大江千里の「月見れば千々にものこそ悲しけれわが身一つの秋にはあらねど」が思い…

あしびき⑩ーリリジョンズラブ2ー

巻二 第三章 若君は人家を見て門を敲いて、宿を貸してほしいと申し出た。宿の主は不審に思って、「この里人はそうでなくても見知らぬ人を泊めませんよ。まして旅の宿は日が暮れて借りるものなのに、月が西に傾いて通常なら出立を急ぐはずの暁に泊めてほしい…

あしびき⑨ーリリジョンズラブ2ー

巻二 第二章 傍らに付き従う童を見るにつけても、白河の逢瀬ばかりが思い出されてふさぐ様は、以前の稚児とは別人のようで、僧都も、「私のように中途半端に年を取ると、ひがみっぽくなって。」などと、他の人に心奪われている若君に、あれこれと恨み言をい…

あしびき⑧ーリリジョンズラブ2ー

巻二 第一章 若君は奈良に下り着いても、侍従の面影が忘れがたく、まだ見ぬ比叡の白雲が気にかかって、慣れ親しんだあの夜の月影を思い浮かべて、子細を知っている童を呼んでは、白河の出来事を語っては心を慰めていた。 そんな具合であるので、得業は若君を…

あしびき⑰ーリリジョンズラブ2ー

巻三 第四章 比叡山では、このような不慮があるとは知るようもないので、約束の日も待ち遠しく思って、法師や童を遣わすと、得業は侍従の手紙を見るや否や、とめどなく涙を流すので、使者も不審に思って、内内、身内の者に訪ねると、若君は何日か前に、得業…

あしびき⑬ーリリジョンズラブ2ー

巻二 第六章 そのまま夜を明かすわけにもいかないので、侍従は若君の手を引き、自分の僧房へと誘った。若君は侍従の部屋に旅の具足があつらえられていて、すぐにでも修行の旅に出ようとしていた様子が見て取れたので、きっと侍従の方でも、つらい気持ちでそ…

あしびき⑪ーリリジョンズラブ2ー

巻二 第四章 得業が逗留した白河の宿所に着くと、主は喜んで迎え入れた。 「そういえば、奈良へ下向いたしました日の夕べに、山の人とか申す者が若君に行方を訪ねて参りましたぞ。もはや奈良へ下りましたと告げたところ、ひどくがっかりして、『普段から奈良…

あしびき⑥ーリリジョンズラブ2ー

巻一 第六章 侍従は、父の実家にいる日々も重なったので、そういつまでもこうしているわけにもいかない、山に帰り上らねばと思ったが、人には語れない稚児への思いが思いが日々強くなっていった。なぜに縁もゆかりもない人と出会って心を悩ませるのだろうと…

あしびき⑦ーリリジョンズラブ2ー

巻一 第七章 侍従は山に登っても、白河のことばかりが気にかかって物思いに沈んでばかりいた。律師も侍従が尋常ではないことに気づきあれこれ訪ねて不審を募らせる。そんなわけで、用件が済んだからとさっさと山を下りるわけにもいかず、どうにも仕方なく四…

あしびき⑤ーリリジョンズラブ2ー

巻一 第五章 次の日も侍従は隣家に立ち寄って、昨夜の邸を窺った。すると御簾の内から十四五ほどの稚児が縁側に立ち現れた。「これがあの琵琶の音の主なのだろう。」と見た。 用紙、人品、立ち居振る舞い髪の筋が垂れ下がっている様子も、波一通りでなく透き…

あしびき④ーリリジョンズラブ2ー

巻一 第四章 侍従はとある八月、中秋の十日過ぎに縁ある人と会う用事があり、白河の辺りに二三日逗留していた。夜が更けて曇りない名月が天高く浮かんでいた。かつての晋の王子猶が月を愛でて遥か剡中の戴安道を訪ねたという故事も思い浮かばれて気もそぞろ…

あしびき③ーリリジョンズラブ2ー

巻一 第三章 このようにして、ニ三年が経った。 実家の父からは頻りに文が届いた。出家の督促であった。隠士はそのつもりで預けたのであった。賞玩のために供したのではない。 律師としてはもう少し、俗体のままで修学させたい気もしたが、それも親御の本位…

あしびき②ーリリジョンズラブ2ー

巻一 第二章 律師は侍従を山へ迎え入れ、改めて対面した。容姿が非常に優れているだけではない。心映えも優雅で、全てを心得ているように思われる聡明さも兼ね備えていた。 律師は、心の内でよき法嗣を得たと、なみなみなく期待をかけた。房中だけでなく、近…

あしびき①ーリリジョンズラブ2ー

巻一 第一章 さほど昔のことではなかったが、二代の帝に仕えた儒林の隠士がいた。 この隠士は菅原の家風を継承し、 一筋に祖霊天神の霊力を頼みとして、大学寮でも蛍雪の功を積み、刻苦研鑽したので、学才の名声は朋輩の中ではだれにも引けを取らないほどで…

秋夜長物語(漢詩)ーリリジョンズラブー

秋夜長物語 観音変化作佳児 以媚惑人争万騎 焼寺燃経方便理 再興仏道是慈悲 平起支韻 書き下し文 観音は変化し佳児と作る 媚を以って人を惑わし争うこと万騎 寺焼け経燃えるは方便の理 再興は仏道是慈悲なり 通釈 観音は美童と変化し その媚態で人々を惑わし…

秋夜長物語(全編)ーリリジョンズラブー

序章 人はなぜ人を恋うてやまないのか。愛すれば愛するほど苦悩や艱難が待ち受けているのにどうして愛することをやめないのか。なにゆえに人は人を求めるのか。 我々は天地自然を愛する。理由などない。好きだから愛する。 春の花が樹頭に咲きほころぶ。その…

秋夜長物語㉕ーリリジョンズラブー

第二十四章 夢の内容を語り合った大衆の面々は思う。 「それでは、川に身を擲ったあの若君は、石山の観音様の変化であったか。我が寺門が焼失したのも、仏法を興隆し、衆生を救済する方便であったのか。」 三十人の衆徒は信心を肝に銘じて、たとえいかなる艱…

秋夜長物語㉔ーリリジョンズラブー

第二十三章 やがて大明神は、石段を上ぼり、社壇に入ろうとする。その時、通夜の大衆の一人、某の僧都が明神の前にひざまずく。涙を流しながら訴える。 「大明神、我々が三摩耶戒壇を建立したのは、勅許を求め、大方認められたいたからでごさいます。それを…

秋夜長物語㉓ーリリジョンズラブー

第二十二章 その後、園城寺の三摩耶戒壇建立の張本人の三十名は、焼き尽くされた三井寺に舞い戻る。しかし、この世の無常を嘆くよりほかすべがない。もはやここは我らが住むべき場所ではないのだ。長等(ながら)山を後にして離れ離れに仏の道を進むしかない…