religionsloveの日記

室町物語です。

あしびき㉑ーリリジョンズラブ2ー

巻四 第二章

 さて、得業の妻は若君が失踪して以来、大につけ小につけ、自分の思う通り誰憚ることもなく振る舞っていたが、回りまわって若君が帰ってきたと聞いて、ひどく狼狽した。聟の来鑒をこっそり呼んで、「得業殿の子は、落ち着かない方で、この五六年、どこともなく放浪していたので、全てが皆娘の思い通りになっていたのに、まことであろうか、今頃になって山法師と共謀して、私や娘を追い出して、聟殿や家人たちにも恥をかかせようとたくらんでいるようです。武装した法師原と上座の宿所に着いたとの知らせがありました。得業殿は出かけていてこのことはご存じありません。えい、何とかして今夜のうちに始末してしまいなさい。その方が、あなたにとっても私にとっても後々憂いを残さないでしょう。」と言うのを、来鑒、聴きも終わらず、「たやすいことでござる。ゆめゆめ他言は無用。今日に限って得業殿が外出なさっているのは好都合。」と返答してほくそえんで帰って行った。

 覚然上座も得業のお供をして出かけていて、永承房は留守である。わずかに若い冠者たちがいるだけであった。

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