religionsloveの日記

室町物語です。

あしびき⑰ーリリジョンズラブ2ー

巻三 第四章

 比叡山では、このような不慮があるとは知るようもないので、約束の日も待ち遠しく思って、法師や童を遣わすと、得業は侍従の手紙を見るや否や、とめどなく涙を流すので、使者も不審に思って、内内、身内の者に訪ねると、若君は何日か前に、得業様の奥方が、秘かに髪を切りなさったので、院中狼狽してどうしようかと、切なく思っているうえに、若君が失踪しなさって、嘆き果てているのですよ。と答えるので、迎えに来た者どもも、かわいそうで言葉にも表しようもなく、茫然として立ち帰った。その折、「しからば確たることををご返事に戴きたいと思います。」と言うので、得業は涙を抑えながら、事の次第を子細に書いて託した。

 侍従は使いが帰ってきたので、稚児がもう上った来たのかと、返ってきた面々に尋ねるが、黙って出された手紙を開いてみると、若君失踪の何とも言いようのない顛末が書かれてあったので、「何という事だ。」と言うよりほかなく、ふとんを被って泣き寝をしていると、律師も驚いて、「どうした、どうした。」と訊くので、起き上がって涙ながらに得業の手紙を見せるのであった。

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