religionsloveの日記

室町物語です。

あしびき㉔ーリリジョンズラブ2ー

巻四 第五章

 五月上旬の頃だったので、五月闇で何も見えない。約束の刻限となったので、来鑒は黒皮縅の鎧兜に、目結いの鎧直垂を着て、三尺余りの太刀を佩いて現れて、召し抱えていた屈強の古強盗、二十余人とともに完全武装で天害の門に行った。約束していた大和・河内・吉野・十津川の悪党どもが、こちらの隅あちらの端から寄り集まって、二百人もの軍勢となった。

 一か所に集まって議して、「邸内には多少の山法師がいると聞く。明け方になればきっと名誉あるいくさをしようとするはずだ。いったんは攻め入って、相手の勇ましさに恐れるふりして退却し、おびき出したところを包囲して、首も武器も根こそぎぶんどってしまおう。」とたくらんだ。

 かくて寅の刻になったので、討手は先を争って宿所に押し寄せた。内でも予期していたことなので、面々は打って出ようとしたが、侍従はそれを制して、「我々は小勢である。勢いに任せて攻めてはいけない。まずは敵を邸内に入れるだけ入れて混乱させ、我々は『八大王子』と合言葉をいうのだ。言わないものは誰彼構わず打ち伏せよ。」と命令した。

 門の扉を開け外して来鑒の軍勢がなだれ込むと、まずは冠者たちが矢継ぎ早に弓を射ると、面食らった来鑒勢は二の足を踏んで、進んでこない。それを見た侍従は、「我こそはと思うものは打って出よ。」と言うと、積刀・旄陳二人の法師が勇んで歩み出た。多勢に中にわり行って、積刀法師は多くの敵を打ち取ったが、太股を切られ倒れてしまう。旄陳法師も屈強の者三四人をたちどころに切り伏せて雄叫びを上げたが、兜の鉢を強く打たれて退いた。代わって打って出たのは武王丸・金剛丸の二人の童子、あまたの悪党を門の外へと押し返す。法師・童皆遅れまいと打ちまわるので、敵も容易には近づけず、時間はいたずらに過ぎていったが、相手は多勢、新手が次々に攻めてくる。こちらはわずか六七人での防戦、さすがに疲れじりじり後退する。

 来鑒はついに縁の上まで立ち入って、寺内の若武者たちに、「鬼駿河来鑒というもの参上。恥ある者は一人もいないのか。いるならお目にかかろう。」と声高に言った。その言葉の終わらないうちに侍従は、「叡山本院の住僧侍従房玄怡ありとは知るや知らずや。」と言って、太刀を抜いて跳びかかる。「来鑒よ。」と太刀で応じて切り結ぶ。双方ともスキがあるようには見えない。火花が飛び散るほどに打ち合って、戦いは互角と見えたが、侍従は太刀をふっと下段に下げ、そこから閃光鋭く切り上げた。虚を突かれた来鑒の膝頭を侍従の太刀がとらえ、のけぞるところを二の太刀で、兜の内側に切り込むと、刃はあやまたず来鑒の首を跳ね上げた。

 「愚か者の張本人をこのように成敗したぞ。」と侍従が叫んで攻め出ると、法師原・童部も後に続けと声を上げて攻めていく。敵方も多少は応戦するものもいたが、大将を討たれた上にもともと寄せ集めの悪党で、大方は我先にと蜘蛛の子を散らすように逃げ惑った。ある者は射倒され、ある者は切り伏せられ、無傷で帰ることができたものはいなかったという。

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