religionsloveの日記

室町物語です。

2020-08-01から1ヶ月間の記事一覧

幻夢物語①ーリリジョンズラブ3ー

上 その1 そもそも、世尊の四八相のように美しい月の容貌は、十五夜の雲に隠れ、釈王の十善のように素晴らしい花の姿は、都の内の嵐に散ります。命あるものは必ず滅び、盛りあるものは必ず衰えるのが定めです。 しかし往々にして、花鳥を賞玩して、無為に春…

あしびき(全編)ーリリジョンズラブ2ー

巻一 第一章 さほど昔のことではなかったが、二代の帝に仕えた儒林の隠士がいた。 この隠士は菅原の家風を継承し、 一筋に祖霊天神の霊力を頼みとして、大学寮でも蛍雪の功を積み、刻苦研鑽したので、学才の名声は朋輩の中ではだれにも引けを取らないほどで…

あしびき㉛ーリリジョンズラブ2ー

巻五 第七章 今は奈良上人と呼ばれるようになった少将の君は、寂而上人の墓を離れることができず、依然としてたった一人高野の庵室にとどまって修行していたが、後々は霊験あるところどころを修行して歩き、やがて東山の麓の長楽寺の奥に庵を結んだ。済度衆…

あしびき㉚ーリリジョンズラブ2ー

巻五 第六章 寂而上人(侍従)の大原の庵は、比叡山からさほど遠くなく、顔見知りの同朋らが仏法の不審な点などをしきりに尋ねに来て、念仏にも支障をきたすほどであった。大原の住まいは愛着もあり、良忍上人ゆかりの来迎院を離れるのには未練もあったが、…

あしびき㉙ーリリジョンズラブ2ー

巻五 第五章 一方、少将律師は公の法会を何度も務めて、少僧都の地位を望んだが、下位の者に先を越され、学道に対しての意欲も衰え、隠遁したいとの気持ちが強まり、暇乞いをしようと春日大社を参拝した。 五重唯識を象徴する緑の簾には、二空真如の露が滴り…

あしびき㉘ーリリジョンズラブ2ー

巻五 第四章 侍従は中陰の法事などを終えて山に帰り上った。そして父の残した遺言をしみじみとかみしめた。すると、世間を出て仏門に入いったのに、なおもはかない栄華を求めているおのれの生涯がひどくつまらないものに思われてきた。「『人としてこの世に…

あしびき㉗ーリリジョンズラブ2ー

巻五 第三章 奈良にとどまった禅師は、東南院を訪ねた。僧都は年老いて病に沈んでいたが、跡目のことなどを遺言できる僧侶も俗人もいなかったが、「様々なところを巡り巡って戻っておいでになったか。返す返すもうれしいことよ。」と言って、準備して迎え入…

あしびき㉖ーリリジョンズラブ2ー

巻五 第二章 侍従は手負った者の傷を繕わせ、十四五日ほど奈良に逗留していたが、比叡山でも噂を聞き及んで、若僧・童子たちが数多く迎えに来たので、山へ帰らざるを得なくなった。 そこで、得業と二人きりで対面した。「長い間病に苦しんでおりまして、快癒…

あしびき㉔ーリリジョンズラブ2ー

巻四 第五章 五月上旬の頃だったので、五月闇で何も見えない。約束の刻限となったので、来鑒は黒皮縅の鎧兜に、目結いの鎧直垂を着て、三尺余りの太刀を佩いて現れて、召し抱えていた屈強の古強盗、二十余人とともに完全武装で天害の門に行った。約束してい…

あしびき㉓ーリリジョンズラブ2ー

巻四 第四章 少将の君がこの房で覚然に薫陶を受けていた時は、禅師の君と呼ばれていた。冠者たちにとっては覚然同様に主君なのである。冠者たちは来鑒の前では承知しましたと言って出てきたが、永承房に帰ると、「禅師殿といえば、我々には代々続く主君筋の…

あしびき㉒ーリリジョンズラブ2ー

巻四 三第章 来鑒鑒は自房へ帰ってすぐにところどころの悪党を呼び集めて、「今夜、いささかやらねばならぬことができてしまったのだが、助勢していただけないかな。」と言うと、みな承知して、丑の刻ほどに天害の門の辺りに集合しようと約束した。 その後、…

あしびき㉑ーリリジョンズラブ2ー

巻四 第二章 さて、得業の妻は若君が失踪して以来、大につけ小につけ、自分の思う通り誰憚ることもなく振る舞っていたが、回りまわって若君が帰ってきたと聞いて、ひどく狼狽した。聟の来鑒をこっそり呼んで、「得業殿の子は、落ち着かない方で、この五六年…

あしびき⑳ーリリジョンズラブ2ー

巻四 第一章 このようにしてニ三年が過ぎて、ある時少将が、「かりそめに奈良を出て、何年も音信不通になっている。父得業はどれほど嘆いているだろう。親不孝の非難は免れません。父の今の様子も聞きたいことです。私を連れて行ってくださいませんか。」と…

あしびき⑲ーリリジョンズラブ2ー

巻三 第六章 侍従は得業の手紙を見て後は、悲しみに沈んで寝込んでしまったので、人々はしばらくはそうもなるであろうと思っていたが、次第に体も衰えて、ひどく気弱にばかりなっていくので、律師も、「これはただ事ではあるまい。このような物思いがきっか…

あしびき⑱ーリリジョンズラブ2ー

巻三 第五章 得業は、この稚児以外頼りとする子供もいないので、ただ嘆くばかりで、世間のことにも関わらないで、引き籠っていた。 それを利用して、この妻は、全て自分の思うに任せて、し得たりと、誰が父ともわからぬ自分の一人娘を、お姫様に仕立て上げて…

あしびき⑯ーリリジョンズラブ2ー

巻三 第三章 東南院では、若君が発見されたことを聞いて、急いで出仕させようとしたが、すぐにでも山へ上る準備もあり、あいにく流行り病気にかかっていると称して、僧都の求めには応じなかった。山に付き従う中童子、送っていく者たちの装束とあれやこれや…

あしびき⑮ーリリジョンズラブ2ー

巻三 第二章 奈良に行きつくと、得業はことのほか喜び、「ちょっと人の相談することがあって、白河に行った折に、たまたま幼い人とお会いになったと伺って、よいついでもなかったのでそのままにしておりました。この子がなんの分別もなく、山まで訪ねたのは…

あしびき⑭ーリリジョンズラブ2ー

巻三 第一章 東南院では若君の行方が分からないので、急いで得業の邸を訪ねたが、「こちらにもいません。」と言うので、驚きあきれるばかりであった。これはただ事でないと捜させた。得業はあれこれと心当たりをたどったが思い当たるところはなかった。 とこ…

あしびき㉕ーリリジョンズラブ2ー

巻五 第一章 かくて夜が明けると、奈良中が大騒ぎになった。「来鑒が山法師に討たれたらしい。」となると奈良の大衆も黙ってはいないだろう。一斉蜂起となれば大事、侍従ももう一段覚悟を決めねばと思っていたが、覚然上座の召使の冠者たちが、迅速に得業た…

あしびき⑫ーリリジョンズラブ2ー

巻二 第五章 九月中旬の頃なので、高嶺の強風が雲を払って月もほのかに見え隠れして、夕べに奥深い谷川の岩たたく水音ももの寂しい。鹿や虫の哀しみを誘う泣き音を聞くにも、大江千里の「月見れば千々にものこそ悲しけれわが身一つの秋にはあらねど」が思い…

あしびき⑩ーリリジョンズラブ2ー

巻二 第三章 若君は人家を見て門を敲いて、宿を貸してほしいと申し出た。宿の主は不審に思って、「この里人はそうでなくても見知らぬ人を泊めませんよ。まして旅の宿は日が暮れて借りるものなのに、月が西に傾いて通常なら出立を急ぐはずの暁に泊めてほしい…

あしびき⑨ーリリジョンズラブ2ー

巻二 第二章 傍らに付き従う童を見るにつけても、白河の逢瀬ばかりが思い出されてふさぐ様は、以前の稚児とは別人のようで、僧都も、「私のように中途半端に年を取ると、ひがみっぽくなって。」などと、他の人に心奪われている若君に、あれこれと恨み言をい…

あしびき⑧ーリリジョンズラブ2ー

巻二 第一章 若君は奈良に下り着いても、侍従の面影が忘れがたく、まだ見ぬ比叡の白雲が気にかかって、慣れ親しんだあの夜の月影を思い浮かべて、子細を知っている童を呼んでは、白河の出来事を語っては心を慰めていた。 そんな具合であるので、得業は若君を…