religionsloveの日記

室町物語です。

あしびき⑯ーリリジョンズラブ2ー

 巻三 第三章

 東南院では、若君が発見されたことを聞いて、急いで出仕させようとしたが、すぐにでも山へ上る準備もあり、あいにく流行り病気にかかっていると称して、僧都の求めには応じなかった。山に付き従う中童子、送っていく者たちの装束とあれやこれやと調達して、今や迎え来るだろうと待っていた。

 この若君の母親は、何年も前にみまかっていて、得業は身近に世話をさせていた青女房を引き上げて妻としていたが、若君が華々しく準備をして、登山しようとしているのを、わけもなく妬ましく癪に触って、夜半にこっそりと寝所に忍び入って、元結の辺りから若君の翠の黒髪をぷっつりと切ってしまった。

 翌朝になって、見るも無残な姿になった若君に、得業をはじめとして面々は、誰がどうしたのかもわからず、いまさらどうしようもなかった。

 こうなっては山へ上ることもできないので、かえって迎えのものに事情をいうのももどかしく、自分に惨めな様を見せるのもつらくて、日暮れには奈良を出て、どこへ行くともなく、さまよい出た。と、熊野に参詣する山伏たちに行き会って、そのまま熊野で山伏の修行を受けることになった。しかし、常に昔を思い出して、

 黒髪のいふかひもなく成りにしは世をおもひきるはじめなりけり

 (黒髪がバッサリ切られたしまったのは、世を(世間を、または、男女の仲を)思い

  切れというきっかけだったのだろうか)

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参照 芦引絵



 

(注)青女房=若い女。または身分の低い(六位相当)の女。六位と五位には大きな隔

    たりがある。

   翌朝になって・・・=普通、得業までことが知れれば、詮索して事態が明らかに

    なるのだろうが、記述があいまい。誰かを使って切らせたのか。髪を切られた

    若君が人知れず疾走する方が自然だと思うのだが。