巻二 第二章
傍らに付き従う童を見るにつけても、白河の逢瀬ばかりが思い出されてふさぐ様は、以前の稚児とは別人のようで、僧都も、「私のように中途半端に年を取ると、ひがみっぽくなって。」などと、他の人に心奪われている若君に、あれこれと恨み言をいったのである。
若君は、何事もなかったように振る舞っていたつもりであったが、やはり色に出たしまったのだなあと、自分ながら恥ずかしく思われ、平兼盛の名歌、「忍れど色に出でにかりわが恋はものや思ふと人のとふまで」が思い出された。
このようにして、九月十日余りの夜、庭に出てあれこれ思いを巡らせていた。折しも空には後の名月がくまなく輝いていた。
その明るさに促されるように決意する。
「都へ行こう。あの方を訪ねよう。」
童にさえ告げず、若君は月の光を頼りに旅立った。夜通し歩いて明け方には宇治の辺りに辿り着いた。
(注)後の名月=陰暦九月十三日の月。栗名月。