religionsloveの日記

室町物語です。

2021-01-01から1年間の記事一覧

稚児今参り⑦ー稚児物語2ー

下巻 その7 乳母は稚児が失踪した後は、尼となって一筋に勤行をして稚児の後生を弔っていた。それ以外は明け暮れ泣いているばかりであった。 後夜の勤行で夜明け近くまで起きていると、妻戸を叩く音がする。「門を開ける音もしないのに。」と不思議に思いな…

稚児今参り⑥ー稚児物語2ー

下巻 その4 さて、邸を出るには出たが、夜は深く行き交う人もいない。「どこにいったらいいのかしら。」となにも思い浮かばず立ちつくしていると、樵(きこり)らしき者がニ三人、山の方へ歩いていくのでついていきなさる。一行は山の険しい方へと行くので…

稚児今参り⑤ー稚児物語2ー

ここからは「絵巻」の欠損も多く、「奈良絵本」で補うことが多いのですが、その際、文脈を考慮して恣意的になることをご了承ください。明らかに欠落したと思われる所は本文を補って訳しましたが、奈良絵本の方が加筆したように思われる所は、両方の訳を併記…

稚児今参り④ー稚児物語2ー

上巻 その10 姫君は今参りを、心から気を許せる女房だとお思いになっているが、一方稚児は「思いがけず思い焦がれる心の内が抑えられず、打ち明けたならば、うって変わって疎ましく思うのではなかろうか。」とおのずと思い患われるのだが、姫君の春宮への…

稚児今参り③ー稚児物語2ー

上巻 その7 乳母が衣や袴などをお着せしてみると、普通の女房と全く変わることないばかりか、上品で美しくさえ見える。乳母は意を得たりと喜んで稚児を牛車に乗せて、かの局へと赴いた。 吉日を見計らって御目通りをすると、女房たちが出てきて、会ってご覧…

稚児今参り②ー稚児物語2ー

上巻 その4 姫君の病状はすっかり回復なさったので、僧正は比叡山にお帰りになったが、稚児は乳母のもとにとどまった。 食事も全くとらず、ぼうっと物思いにとりつかれて病がちになっていると、比叡山からもひっきりなしに使者が遣わされて、医師も大騒ぎし…

稚児今参り①ー稚児物語2ー

「稚児今参り」は僧侶と稚児の恋愛を描いたものではありません。稚児と姫君との恋愛ですから厳密には、稚児物語ではないかもしれませんが、主人公が比叡山の稚児ですので取り上げてみました。 室町物語大成9巻に岩瀬文庫蔵の*奈良絵本が翻刻されています。…

稚児物語とその周辺—蹇驢嘶餘について全ー

蹇驢嘶餘とは 群書類従雑部45巻第490に「蹇驢嘶餘」が収められています。 「蹇驢」とはロバ、「嘶餘」はいななき。取るに足りない者のつぶやき、という意味でしょうか。室町末期から安土時代ごろの有職所実の随筆です。作者は未詳ですが、文中の言全と…

稚児物語とその周辺—蹇驢嘶餘について⑤ー

まとめ 「蹇驢嘶餘」はまだまだ続くのですが、後半部には稚児・童子に関する記述は多くありません。「山内文庫本」で確認できる本文はは活字本よりずいぶん長く、奥書があります。その末尾はこのように書かれています。 右蹇驢嘶餘一冊者不知誰人作愚按台家…

稚児物語とその周辺—蹇驢嘶餘について④ー

内容4 一 児公家息ハ。白水干着ル也。武家ノ息ハ。長絹ヲ着スル也。クビカミノ有ヲ水干ト云。無ヲ長絹ト云フナリ。イヅレモ菊トヂハ黒シ。中堂供養ノトキ。御門跡ノ御供奉。貫全童形ニテ仕ル也。其トキハ。空色ノ水干其時節ニ似合タル結花ヲ。菊トヂニシテ…

稚児物語とその周辺—蹇驢嘶餘について③ー

その3 次いで梶井門跡について詳しく書かれています。門跡はその1,その2でも比叡山ヒエラルキーの最上位に位置付けられます。この門跡とは皇族・貴族の子弟が出家して、入室している特定の寺家・院家で、山門(比叡山)では、円融(梶井)院(三千院とも…

稚児物語とその周辺—蹇驢嘶餘について②ー

内容2 右貫全話之。 と書かれた続きを読みます。ここからは筆者自身の知識でしょうか。まず山王七社について言及します。上中下七社で合計二十一社あるのですが、その上七社についてです。 次にその七座の公人(雑役)として中方(中間僧)では無職の衆徒、…

稚児物語とその周辺—蹇驢嘶餘について①ー

蹇驢嘶餘とは 群書類従雑部45巻第490に「蹇驢嘶餘」が収められています。 この後で署名等に触れられた部分があったのですが、その何十行が、新しい記事を上書きして間違えて更新してしまって、焼失してしまいました。(涙) 記憶を頼りに再生してみます…

稚児観音縁起 全編ー稚児物語1ー

「稚児観音縁起」「稚児今参り」「花みつ」は、稚児が登場する物語ですが、稚児と僧侶の恋愛譚ではありません。ですから「リリジョンズラブ」というサブタイトルを付けるのは憚られますが、広義には「稚児物語」でしょう。しかし稚児のありようは窺い知れる…

稚児観音縁起③ー稚児物語1ー

その3 その時の上人の心中はなんともやりきれない。鳥は死ぬ時はその声はや柔らかになるといい、人は別離の時はその言葉は哀切であるという。そうでなくても遺言の言葉だと思えば悲しいのに、このように来し方行く末の事を心を込めて何度も何度も言うので、…

稚児観音縁起②ー稚児物語1ー

その2 十三四歳ほどの紫の小袖に白い練貫の衣を重ね着して朽葉染の袴をはいた少年が優美なたたずまいで立っていた。月の光に照らされたその容貌は実に美しく、竹の簪を挿して元結で束ねて後ろ髪を長く垂らし、漢竹の横笛をゾクッとするほど魅力的に吹き鳴ら…

稚児観音縁起①ー稚児物語1ー

「稚児観音縁起」「稚児今参り」「花みつ」は、稚児が登場する物語ですが、稚児と僧侶の恋愛譚ではありません。ですから「リリジョンズラブ」というサブタイトルを付けるのは憚られますが、広義には「稚児物語」でしょう。しかし稚児のありようは窺い知れる…

松帆物語(全編)ーリリジョンズラブ8ー

その1 さほど昔の事ではなかったが、四条の辺りに中納言で右衛門督を兼任している方がいた。中将である御子が一人いたが、それに続く御子が生まれず、寂しく思っていたが、ずいぶん経って年の離れた弟が生まれた。成長したらさぞ美しくなるだろうと思われる…

松帆物語⑧ーリリジョンズラブ8ー

その8 しばらくして伊予法師が言った。 「今まではつつみ隠していましたが、かの人亡くなってしまった上は憚ることもないでしょう。この方こそ宰相殿が恋しく思って泣いたという殿上人です。このように卑しい山賎(やまがつ)の身なりをしているのも、道中…

松帆物語⑦ーリリジョンズラブ8ー

その7 そうそう、一方の都では、侍従が身投げをしたとの噂が立って、左大将は慌てふためいた。 「無益に身勝手な慰みごとをして人の非難を受けることだ。それにしても惜しい人を失ったことだ。」 と悲しんではいたが、世間の人々でこの殿を擁護する者は一人…

松帆物語⑥ーリリジョンズラブ8ー

その6 左大将からは絶えず病を気遣う使いが来るが、相変わらずの病状を伝えるだけでうかがうこともなく日は過ぎて、長月にもなった。空しく月日を送ることは心細く、ともすれば露と競うかのように涙で袖を濡らすのである。 ある時、兄の中将殿が物詣でに出…

松帆物語⑤ーリリジョンズラブ8ー

その5 この事を聞いて侍従は耐え難く思い、 「私のせいで罪もない人に辛い目を見させているのは悲しい。今にも駆けつけてその淡路島の波音や風の声を一緒に聞きたい。」 と嘆き悲しんだが、一通の手紙さえ交わすこともできなかったので、もどかしい思いであ…

松帆物語④ーリリジョンズラブ8ー

その4 その頃、時の第一人者として思いのままに政治を執り行っていた太政大臣の御子で、左大将殿という方がいた。その御前で、源氏物語の雨夜の品定めではないが、夏の雨が静かに降って日も永い頃に、くつろいで世間話などを人々がしていた。そのついでに、…

松帆物語③ーリリジョンズラブ8ー

その3 岩倉の宰相は、花の下で見た侍従の面影が頭から離れず、命も保てそうもないほど悶え苦しんで、どうにか伝手を探し出して手紙を送った。 「過ぎし時、花の下で見るともなしに眺めて以来、あくがれ出た私の魂はいつまであなたの袖の中にとどまっている…

松帆物語②ーリリジョンズラブ8ー

その2 藤の侍従が十四歳になった春の頃、かつて慣れ親しんだ横川の法師や、京の町の風流な若君たちが来合せて、 「人が申すところによると北山の桜が今盛りだそうです。侍従の君もご覧になったらどうですか。ご一緒いたしましょう。」 などと口々に言うので…

松帆物語①ーリリジョンズラブ8ー

その1 さほど昔の事ではなかったが、四条の辺りに中納言で右衛門督を兼任している方がいた。中将である御子が一人いたが、それに続く御子が生まれず、寂しく思っていたが、ずいぶん経って年の離れた弟が生まれた。成長したらさぞ美しくなるだろうと思われる…

弁の草紙(全編)ーリリジョンズラブ7ー

その1 前仏釈尊がこの世を去って早や二千余年が過ぎた。その経典の巻巻は残ってはいるが、世は衰えてそれを学ぶ人は少ない。衆生を救うという後仏、弥勒菩薩はまだ世に現れず、種々の魔障がやって来て人々を悩ましている。この世とあの世の間にさまようよう…

弁の草紙⑦ーリリジョンズラブ7ー

その7 ここに、真鏡坊昌澄という者がいた。愚かな法師ではあったが、書にはいささかの技量を持っていた。弁公はこの法師を召して、天台の四教五時の聖教を書いてほしいと依頼していた。 日光山には数々の峰があった。神護景雲元年に勝道上人は、補陀落山(…

弁の草紙⑥ーリリジョンズラブ7ー

その6 ある時、人払いをして例の童を枕近くに呼んで、 「あこは知らないだろうねえ。千載集に見えるのだが、昔、奈良の都に侍従という童がいたそうです。その身はえも言われず美しく、ある人が親しくして世話をしていたそうだけれど、嫉妬して邪魔する人が…

弁の草紙⑤ーリリジョンズラブ7ー

その5 大輔は氷りついていた胸のつらさも溶ける思いで、夢ばかりの短い春の夜は、千夜分をを一夜に籠めて過ごそうと思っても、その甲斐もなく忽ち過ぎて、別れ去らねばならぬ時刻となった。有明の月は朧に照りもせず、曇りしない。弁の君の乱れてかかる黒髪…