religionsloveの日記

室町物語です。

2020-11-01から1ヶ月間の記事一覧

上野君消息⑥ーリリジョンズラブ4ー

消息 その1 去年の晩夏、月の明るい夜に、法輪寺をを参詣しようと思って、大堰川のほとりにと行った。川辺のさざ波は静かで、のどかな月の光は一点の曇りもない夜半である。ここは難波津ではないが、それに劣らぬほどの明るさよ、と誰かに告げて、情けを解…

上野君消息⑤ーリリジョンズラブ4ー

序 その5 どれほどの年月が経ったであろうか、ある冬の日、一人の僧が般若谷を訪ねてきた。聞くと、美濃の国の祐向山(ゆうこやま、または、いこやま)にあるという山寺から円頓授戒に来た戒者という。一人の若僧がここ数月投宿して修行に打ち込んでいる。…

上野君消息④ーリリジョンズラブ4ー

序 その4 かねてから山を下りようと決めていた上野君は、旅支度も秘かに整えていた。 翌朝には、墨染の衣に袈裟を着て、経袋や檜笠を首に懸け、草履に緒を締めて庭に立った。朝の冷気が心地よく般若谷に漂う。住み慣れた僧房を見やると、師匠や同宿が門に立…

上野君消息③ーリリジョンズラブ4ー

序 その3 翌日の夜、上野君は大輔の阿闍梨を尋ねた。阿闍梨は脇息に体をもたせてくつろいだ様子で上野君を迎えた。いささか般若湯が入っているらしい。上野君は感情を抑えた穏やかな口調で口を開いた。講説の時の誰をも調伏しないではおかない峻烈な口ぶり…

上野君消息②ーリリジョンズラブ4ー

序 その2 上野君円厳が二十一歳の時の四月八日であったと覚えている。半輪の月が西に傾き皆も寝静まったころである。短檠(たんけい)に灯をともして看経(かんきん)していると仄明るい灯火の向こうにゆらりと人影が現れた。 「どうした上野。」 そこには…