巻二 第一章
若君は奈良に下り着いても、侍従の面影が忘れがたく、まだ見ぬ比叡の白雲が気にかかって、慣れ親しんだあの夜の月影を思い浮かべて、子細を知っている童を呼んでは、白河の出来事を語っては心を慰めていた。
そんな具合であるので、得業は若君を呼び寄せて、「いつまでもそんな状態でいるのか、早く僧都のもとに行きなさい。あの方は『京に行っていた時でさえ、待ち遠しく思われていたののに、もう奈良に戻っていたのだから。』と言い寄こしているのですから。」と言い諭すので、あまり気が進まなかったのだが、父の諫めには抗うこともできず、東南院へと赴いた。