religionsloveの日記

室町物語です。

塵荊鈔(抄)⑮ー稚児物語4ー

第十五 このようにして新発意となった花若は、師匠や同朋との別離がこらえようもなく悲しく、事に触れて大衆に交わることも空しく思われて、無常の思いばかりが心に染みて、常に静かに物思いなさっているのでした。「この世に飽きて、その秋(あき)風ではな…

塵荊鈔(抄)⑭ー稚児物語4ー

第十四 さて、花若殿は、朋友の玉若殿との別れといい、頼りになさっていた師匠との御別れなど、あれこれ世を厭う思いがますます深くなっていき、「いつまで他の人が先立って、最期に行く死出の道を嘆くのだろうか。恩愛別離の悲しみ、老少前後の恨み、何事が…

塵荊鈔(抄)⑬ー稚児物語4ー

第十三 そうしているうちに右方の舞手が「新鳥蘇」という、鳥類の楽を舞っている最中に, 虚空から白鷹が、千部経の結縁(法会)のためにでありましょうか、舞下りてきました。 およそ吾が朝での、放鷹(鷹狩)の起源を申し上げますと、人皇十七代の帝、仁徳…

塵荊鈔(抄)⑫ー稚児物語4ー

第十二 そうしているうちに法会の日にもなったので、庭の前には宝樹宝幡(金銀や玉で飾った木や幡)を立てて、堂内の荘厳(厳かな飾りつけ)は金銀をちりばめ宝石を磨いて飾りつけます。導師である師匠の大阿闍梨の相好(表情)は、まるで釈尊が威儀を正して…

塵荊鈔(抄)⑪ー稚児物語4ー

第十一 文の途中ですが、話題が「鏡」に変わるので回を改めます。 (玉若の夢を花若が叡山の衆徒に語ったが、) 比叡山三塔の大衆は衆議して、「鏡を置くのは問題ないだろう。」と議定なされましたが、ある若い衆徒の中から、「舞の座敷に水鏡を置くのは危な…

塵荊鈔(抄)⑩ー稚児物語4ー

第十 夜も明け方になろうとして、寒々とした磬の音は尽きて読経も果ててしまいました。花若殿もしばらく睡眠に入りなさると、玉若殿が鮮明に夢の中に現れてお告げをなさいます。 「私は運命の定めがあって、人の身を変じはしましたが、まだこの土に宿縁があ…

塵荊鈔(抄)⑨ー稚児物語4ー

第九 その後、比叡山全山で衆議があって、彼の葬送の地に一囲のお堂を建立し、玉若殿の肖像を据えて、三千人の大衆が千部の法華経を頓写(一日で書き写す事)して菩提を弔いなされました。 ある時、花若殿が御影堂に参拝し御覧になると、いつしか人気のない…

塵荊鈔(抄)⑧ー稚児物語4ー

第八 以下玉若の遺書 「それにしてもまあ、竹馬で遊んだ春のころから、同じ桜の花簪を挿したその桜の木の本で、師匠と花若殿と三世の契りを交わした言葉も、今となっては空しくなってしまいました。今、十五の秋の末となって、別れが近づこうとしていますが…

塵荊鈔(抄)⑦ー稚児物語4ー

第七 さて、霊魂となった玉若殿は、偕老同穴を深く語り合った花若殿、また鴛鴦の袂を重ね合うように睦んだ僧正、「芝蘭断金」といった深い契りを結んだ同宿朋友らを振り捨ててたった一人、黄泉中有の旅に赴いて、生死の長い闇の路にお迷いなさっているのは憐…

塵荊鈔(抄)⑥ー稚児物語4ー

第六 日数を経ていくと弥(いや)増しに心の月を掩っていき、胸につきまとうのは雲と霧で、心が晴れわたることはありません。玉若殿は、「むなしくはかない露のような我が身を、宿す草葉のような所に風が吹き添って露を飛ばすように死んでいくことは、嫌だと…

塵荊鈔(抄)⑤ー稚児物語4ー

第五 「あなたとても岩や木でできている身の上ではごさいますまい。心の底に秘めている恋心をお語りなさい。」 と僧正が責めておっしゃると、玉若殿はこれを聞いて、 「まことにおっしゃることは道理です。さほど遠くない昔の事でしょうか、俊恵法師といった…

塵荊鈔(抄)④ー稚児物語4ー

第四 また、ほどほど昔の頃か、嵯峨開山(嵯峨山大覚寺開祖恒寂上人?)がまだ若年で石侍者と申していた頃、仏法修行をして、諸国諸寺を遍参して、当山(比叡山)にお上りになりました。頃は二月半ばの事で、さる院家の庭の梢は、まるで大庚嶺の梅が風に匂い…

塵荊鈔(抄)③ー稚児物語4ー

第三 巻2から巻10までは花若・玉若の記述は多少の問答はあるようですが、ほとんど見えないようです。(精読したわけではありませんが。)ですから③は巻11冒頭から始めます。 早物語の盲僧が情感たっぷりに玉若・花若・師匠の情愛を語ったのでしょうか。…

塵荊鈔(抄)②ー稚児物語4ー

第二 比叡山の事 そもそもこの二人の少年のいらっしゃった天台山と申しますのは、元の名は日枝山でした。これは(京都盆地・平安京から見ると)朝日がこの山から出てきて次第にその枝を昇っていくので名付けられたのでした。太陽の出る所にあるという神木の…

塵荊鈔(抄)①ー稚児物語4ー

「塵荊鈔」は室町時代成立の「類書(百科事典)」といっていいのでしょうか。問答体で書かれていて、仏教・文字・和歌・連歌・物語・歴史・武具や遊芸、音楽など広範の事象について解説された書物です。これ一冊あれば、僧侶や武士としての教養が網羅できる…

花みつ全編ー稚児物語3ー

「花みつ」は「室町物語大成」には、10巻に「花みつ」「花みつ月みつ」が、補遺2巻に「月みつ花みつ」が所収されています。あらすじはほぼ同じですが、表現には多くの違いがあります。このブログでは「花みつ」を基本として、「花みつ月みつ」(以下「花…

花みつ⑦ー稚児物語3ー

下巻 その5 さて、里への手紙と書かれたものには、 母上に死に別れてこの方、羽のない鳥のような心地がして、日々を過ごしていま したが、別当の御心に背くのみならず、頼みと思っていた父にも不興を買い、誰を 頼りに月日を送り申し上げましょうか。専ら、…

花みつ⑥ー稚児物語3ー

下巻 その3 大夫・侍従はそ知らぬふりをして傍らでこっそりと、「ああ花みつ殿が幼かった時から愛おしく思っていたので、無道な事も承知したせいで、思いもよらずこの人にたばかられて、我々が自ら手を掛けたとは無念。こうして悩んでいても苦しいばかりだ…

花みつ⑤ー稚児物語3ー

下巻 その1 しばらくして花みつ殿は、「言い出すにつけても、それぞれのお思いになる事を考えると、恥ずかしくは思いますが、私が今父上に憎まれていることをつくづくと思うと、父の寵愛が月みつに変わった事は無念です。私にとって月みつは仇のようなもの…

花みつ④ー稚児物語3ー

上巻 その7 岡部は心中、「ここで言い出すよりは、とりあえずは帰って改めて手紙で申し上げてみよう。」と思ってお帰りになる。花みつ殿は、さすがに父が恋しく、妻戸の陰に寄り添うように立って、父が帰るのを見て涙を流しなさっていると、岡部も気づいて…

花みつ③ー稚児物語3ー

上巻 その5 別当を始め人々は、「かわいそうに、花みつ殿は母に先立たれて、いつの間にか父さえ心変わりして、疎(おろそか)かに扱うように見えなさるにつけても、先ずは月みつ殿をいとし子と思っているのだろう。」と思って待遇し(月みつの方を大切に扱…

花みつ②ー稚児物語3ー

上巻 その3 次第に日が暮れていくので、岡部と別当は互いに暇乞いして、岡部は花みつに向かって言った。「今日からおまえはここに預け置こうと思う。別当の御心に背くことなく、よく学問に励み、父の名誉ともなって、自身も徳を身に付けなさい。月みつもい…

花みつ①ー稚児物語3ー

「花みつ」は「室町物語大成」には、10巻に「花みつ」「花みつ月みつ」が、補遺2巻に「月みつ花みつ」が所収されています。あらすじはほぼ同じですが、表現には多くの違いがあります。このブログでは「花みつ」を基本として、「花みつ月みつ」(以下「花…

稚児今参り全編ー稚児物語2ー

「稚児今参り」は僧侶と稚児の恋愛を描いたものではありません。稚児と姫君との恋愛ですから厳密には、稚児物語ではないかもしれませんが、主人公が比叡山の稚児ですので取り上げてみました。 室町物語大成9巻に岩瀬文庫蔵の*奈良絵本が翻刻されています。…

稚児今参り⑧ー稚児物語2ー

下巻 その10 何日か過ごしていると、姫君の夢に、父大臣や奥方の御嘆きなさる様子ばかりが何度も何度も現れるので、「きっと私のことを心配して嘆いているのだわ。」と思いなさっているのを、乳母は傍で見て、かわいそうに思い、「どうにかして父上母上に…

稚児今参り⑦ー稚児物語2ー

下巻 その7 乳母は稚児が失踪した後は、尼となって一筋に勤行をして稚児の後生を弔っていた。それ以外は明け暮れ泣いているばかりであった。 後夜の勤行で夜明け近くまで起きていると、妻戸を叩く音がする。「門を開ける音もしないのに。」と不思議に思いな…

稚児今参り⑥ー稚児物語2ー

下巻 その4 さて、邸を出るには出たが、夜は深く行き交う人もいない。「どこにいったらいいのかしら。」となにも思い浮かばず立ちつくしていると、樵(きこり)らしき者がニ三人、山の方へ歩いていくのでついていきなさる。一行は山の険しい方へと行くので…

稚児今参り⑤ー稚児物語2ー

ここからは「絵巻」の欠損も多く、「奈良絵本」で補うことが多いのですが、その際、文脈を考慮して恣意的になることをご了承ください。明らかに欠落したと思われる所は本文を補って訳しましたが、奈良絵本の方が加筆したように思われる所は、両方の訳を併記…

稚児今参り④ー稚児物語2ー

上巻 その10 姫君は今参りを、心から気を許せる女房だとお思いになっているが、一方稚児は「思いがけず思い焦がれる心の内が抑えられず、打ち明けたならば、うって変わって疎ましく思うのではなかろうか。」とおのずと思い患われるのだが、姫君の春宮への…

稚児今参り③ー稚児物語2ー

上巻 その7 乳母が衣や袴などをお着せしてみると、普通の女房と全く変わることないばかりか、上品で美しくさえ見える。乳母は意を得たりと喜んで稚児を牛車に乗せて、かの局へと赴いた。 吉日を見計らって御目通りをすると、女房たちが出てきて、会ってご覧…