religionsloveの日記

室町物語です。

松帆物語(全編)ーリリジョンズラブ8ー

その1 さほど昔の事ではなかったが、四条の辺りに中納言で右衛門督を兼任している方がいた。中将である御子が一人いたが、それに続く御子が生まれず、寂しく思っていたが、ずいぶん経って年の離れた弟が生まれた。成長したらさぞ美しくなるだろうと思われる…

松帆物語⑧ーリリジョンズラブ8ー

その8 しばらくして伊予法師が言った。 「今まではつつみ隠していましたが、かの人亡くなってしまった上は憚ることもないでしょう。この方こそ宰相殿が恋しく思って泣いたという殿上人です。このように卑しい山賎(やまがつ)の身なりをしているのも、道中…

松帆物語⑦ーリリジョンズラブ8ー

その7 そうそう、一方の都では、侍従が身投げをしたとの噂が立って、左大将は慌てふためいた。 「無益に身勝手な慰みごとをして人の非難を受けることだ。それにしても惜しい人を失ったことだ。」 と悲しんではいたが、世間の人々でこの殿を擁護する者は一人…

松帆物語⑥ーリリジョンズラブ8ー

その6 左大将からは絶えず病を気遣う使いが来るが、相変わらずの病状を伝えるだけでうかがうこともなく日は過ぎて、長月にもなった。空しく月日を送ることは心細く、ともすれば露と競うかのように涙で袖を濡らすのである。 ある時、兄の中将殿が物詣でに出…

松帆物語⑤ーリリジョンズラブ8ー

その5 この事を聞いて侍従は耐え難く思い、 「私のせいで罪もない人に辛い目を見させているのは悲しい。今にも駆けつけてその淡路島の波音や風の声を一緒に聞きたい。」 と嘆き悲しんだが、一通の手紙さえ交わすこともできなかったので、もどかしい思いであ…

松帆物語④ーリリジョンズラブ8ー

その4 その頃、時の第一人者として思いのままに政治を執り行っていた太政大臣の御子で、左大将殿という方がいた。その御前で、源氏物語の雨夜の品定めではないが、夏の雨が静かに降って日も永い頃に、くつろいで世間話などを人々がしていた。そのついでに、…

松帆物語③ーリリジョンズラブ8ー

その3 岩倉の宰相は、花の下で見た侍従の面影が頭から離れず、命も保てそうもないほど悶え苦しんで、どうにか伝手を探し出して手紙を送った。 「過ぎし時、花の下で見るともなしに眺めて以来、あくがれ出た私の魂はいつまであなたの袖の中にとどまっている…

松帆物語②ーリリジョンズラブ8ー

その2 藤の侍従が十四歳になった春の頃、かつて慣れ親しんだ横川の法師や、京の町の風流な若君たちが来合せて、 「人が申すところによると北山の桜が今盛りだそうです。侍従の君もご覧になったらどうですか。ご一緒いたしましょう。」 などと口々に言うので…

松帆物語①ーリリジョンズラブ8ー

その1 さほど昔の事ではなかったが、四条の辺りに中納言で右衛門督を兼任している方がいた。中将である御子が一人いたが、それに続く御子が生まれず、寂しく思っていたが、ずいぶん経って年の離れた弟が生まれた。成長したらさぞ美しくなるだろうと思われる…

弁の草紙(全編)ーリリジョンズラブ7ー

その1 前仏釈尊がこの世を去って早や二千余年が過ぎた。その経典の巻巻は残ってはいるが、世は衰えてそれを学ぶ人は少ない。衆生を救うという後仏、弥勒菩薩はまだ世に現れず、種々の魔障がやって来て人々を悩ましている。この世とあの世の間にさまようよう…

弁の草紙⑦ーリリジョンズラブ7ー

その7 ここに、真鏡坊昌澄という者がいた。愚かな法師ではあったが、書にはいささかの技量を持っていた。弁公はこの法師を召して、天台の四教五時の聖教を書いてほしいと依頼していた。 日光山には数々の峰があった。神護景雲元年に勝道上人は、補陀落山(…

弁の草紙⑥ーリリジョンズラブ7ー

その6 ある時、人払いをして例の童を枕近くに呼んで、 「あこは知らないだろうねえ。千載集に見えるのだが、昔、奈良の都に侍従という童がいたそうです。その身はえも言われず美しく、ある人が親しくして世話をしていたそうだけれど、嫉妬して邪魔する人が…

弁の草紙⑤ーリリジョンズラブ7ー

その5 大輔は氷りついていた胸のつらさも溶ける思いで、夢ばかりの短い春の夜は、千夜分をを一夜に籠めて過ごそうと思っても、その甲斐もなく忽ち過ぎて、別れ去らねばならぬ時刻となった。有明の月は朧に照りもせず、曇りしない。弁の君の乱れてかかる黒髪…

弁の草紙④ーリリジョンズラブ7ー

その4 山籠もりが長きにわたったので、昌長僧都は稚児・童子を東谷へ下らせた。おのれの厳しい修行にとことん付き合わせては気が詰まると考えたのである。解放された稚児たちは教城坊でのんびりと過ごしていた。弁公は山を下りても仏道への心の怠る事はなか…

弁の草紙③ーリリジョンズラブ7ー

その3 さて、東谷の昌道心の堅さからかねてから決意していた。日光には中禅寺という東谷よりもさらに山深い霊社があって、この奥殿のある山は、古くから黒髪山と呼ばれていた。 勝道上人がこの御山に立木の自然木に千手観音を彫り、御堂を弘法大師が建立し…

弁の草紙②ーリリジョンズラブ7ー

その2 千代若が七歳の時、まだ稚い年齢ではあったが、父正保の遺言であったので下野国日光山の座主の御坊に入門した。成長した後はどのような美丈夫になるだろうかと思われるようなかわいらしい容貌だったので、座主もなみなみならず愛おしみ、人も皆大切に…

弁の草紙①ーリリジョンズラブ7ー

その1 前仏釈尊がこの世を去って早や二千余年が過ぎた。その経典の巻巻は残ってはいるが、世は衰えてそれを学ぶ人は少ない。衆生を救うという後仏、弥勒菩薩はまだ世に現れず、種々の魔障がやって来て人々を悩ましている。この世とあの世の間にさまようよう…

鳥部山物語(全編)ーリリジョンズラブ6ー

その1 この世はなんと無常なものであろうか。 武蔵の国の片隅に、とある精舎があり、多くの学僧が仏道に励んでいた。その司である某の和尚と申す方の弟子に、民部卿という者がいた。この民部は容色は端正で、学道への志も深く、仏典だけではなく、史記など…

鳥部山物語⑦ーリリジョンズラブ6ー

その7 「ああどうしたことだ。」と胸騒ぎして、急いで開いて見ると、「病気の人は日に日に弱っていき、昨日の暮れ方のこれこれの時分に亡くなりました。」と書いてあるのを読んで、目がくらみ、心は乱れて、「これはどういうことだ。」と夢の中にいるような…

鳥部山物語⑥ーリリジョンズラブ6ー

その6 道行くと、富士に高嶺に降る雪も、積もる想いになぞらえられて、 消え難き富士の深雪にたぐへてもなほ長かれと思ふ命ぞ (なかなか消えない富士に積もる深雪に例えても、それよりさらに長くあれと思う あなたの命です。) などと胸から溢れ出でること…

鳥部山物語⑤ーリリジョンズラブ6ー

その5 都では、藤の弁はに部と別れて以来、枕に残る民部の移り香をしきりに嗅いでは、その人に添い臥している心地になって、一日二日と起き上がりもせず、袂も涙で朽ちてしまうほど泣き悲しみなさるが、自分以外に誰もこのつらさを語り合う者もいなかった。…

鳥部山物語④ーリリジョンズラブ6ー

その4 すると民部はいてもたってもいられず、さらに返歌をする。 「散りも始めず咲くも残らぬ面影をいかでか余所の花に紛へん (残らず咲いて散り始めない満開の桜をどうして別の所の花と見間違いましょう か。私が見初めたのはあなたに他なりません。) 全…

鳥部山物語③ーリリジョンズラブ6ー

その3 民部は その配慮がうれしく、やや心が晴れる心地もして、身支度をして、かの蓬生の家を訪ねた。 宿の主は非常に歓待して、数日もすると互い気の置けない仲となったのであった。また、をの翁の子で、まだごく年若くはあったが、情けを解する少年が慕い…

鳥部山物語②ーリリジョンズラブ6ー

その2 民部は稚児の姿を遠目にほのかに見だけだで、すっかり心を奪われた。花見も十分堪能し、さあ帰ろうかとなっても、花ならぬ稚児をのみうっとりと見惚れ続けている。これでは一緒に来た人々も、さすがに気が付いて言い出すかもしれない、それも思慮に足…

鳥部山物語①ーリリジョンズラブ6ー

その1 この世はなんと無常なものであろうか。 武蔵の国の片隅に、とある精舎があり、多くの学僧が仏道に励んでいた。その司である某の和尚と申す方の弟子に、民部卿という者がいた。この民部は容色は端正で、学道への志も深く、仏典だけではなく、史記など…

嵯峨物語(全編)ーリリジョンズラブ5ー

序文 およそ男色の道の長い歴史を繙くと、西域(天竺)・中華・本朝に至るまで盛んに行われていたいたようである。 仏陀の説くところでは、糞門を犯し、口門を犯すことは邪な行為として、男色を非道と名付け、功徳円満経には末世の比丘は小児を愛する罪によ…

嵯峨物語⑭ーリリジョンズラブ5ー

本文 その12 中将は、 三年間父上の行った道を改めることなく守ってこそ孝子の道と言えるのに、勅命なので拒否できるわけもないが、どれほども経たないのに住み替えたことは、何とも畏れ多く罪深いことだと思いなさって、つらいことと思い悩んでいました。…

嵯峨物語⑬ーリリジョンズラブ5ー

本文 その11 年も改まり、毎年の事ですが、新鮮な気持ちで、日の光ものどやかで、すがすがしい空の様子に、人の心も喜ばしくなります。慶賀の歌を奏上する人も多く、仙洞御所で歌会が催されました。中将も参内して、「立春の心を」という事で次のように詠…

嵯峨物語⑫ーリリジョンズラブ5ー

本文 その10 一方、一条郎は松寿君都へ戻って中将となってからは、文を伝える術もなく、かといって思いを断ち切ることもできないでいました。鬱々たる思いで、京師にさまよい出でてゆかりある古御所を訪ねて、様々なことを語り合って、鬱屈した心を晴らそ…

嵯峨物語⑪ーリリジョンズラブ5ー

本文 その9 やがて死後の弔いも済ませて、松寿君は父の遺言通り、内裏へ出仕することとなりました。帝も故中納言殿の生前の功労の偉大さを思い出しなさって、出仕したその日にも松寿を元服させ、中将に任じました。 これよりは、紀中将康則と名のりなさいま…