religionsloveの日記

室町物語です。

富士の人穴の草子 全編 -異郷譚4ー

「異郷譚」の四番目に取り上げるのは「富士の人穴草子」です。前半は異郷譚っぽいのですが、後半は地獄めぐりの様相です。地獄は異郷とはいえませんね。刊本写本も多く有名な話なので紹介するまでもないのかもしれませんが、お付き合いください。 原文は「室…

富士の人穴の草子⑤-異郷譚4ー

その5 その畜生道を過ぎて、大菩薩は餓鬼道を見せようということで新田を連れて行きなさいます。 ここにはまた、食物が前に据え置かれていても食べることができない者がいます。これは娑婆では財宝は持ってるのに、食事は他人にも施さず自分でも食べること…

富士の人穴の草子④-異郷譚4ー

その4 「新田よよく聞け。六道というのは地獄道・餓鬼道・畜生道・修羅道・人道・天道である。次に畜生道を見せよう。」と言って、先に進みなさると、蛇が三匹います。左右は女の蛇で真ん中に男の蛇を置いて巻き絡んで男が女の口を吸っています。その吹く息…

富士の人穴の草子③-異郷譚4ー

その3 その後大菩薩は、「ただ今頂いたの剣の恩返しに、あなたに六道の有様あらましを見せて帰そう。」と、毒蛇の形を十七八の童子に変身なさって仰しゃいます。「本当だろうか、日本の衆生は地獄が恐ろしいとはいうのだけれど、実際に行って帰ってきた者は…

富士の人穴の草子②-異郷譚4ー

その2 さて、和田胤長は頼家殿の御前に参って、岩屋のいきさつをこれこれと申し上げました。頼家殿はお聞ききになって、岩屋の奥の有様を見届けなかった事が、気がかりでならず、重ねておっしゃいます。「領主のいない所領が四百町ある。誰でもよい、所領を…

富士の人穴の草子①-異郷譚4ー

「異郷譚」の四番目に取り上げるのは「富士の人穴草子」です。前半は異郷譚っぽいのですが、後半は地獄めぐりの様相です。地獄は異郷とはいえませんね。刊本写本も多く有名な話なので紹介するまでもないのかもしれませんが、お付き合いください。 原文は「室…

かくれ里(劉阮天台)-異郷譚3ー

「異郷譚」の三番目に取り上げるのは「かくれ里」(赤城文庫蔵)です。「室町物語大成」によれば、寛文か延宝ごろ(17世紀後半)の絵巻だそうです。題を欠いているため仮に「かくれ里」とつけたようですが、内容は「劉阮天台」呼ばれ画題にも採られている…

不老不死全編-異郷譚2ー

上 その一 昔から今に至るまで素晴らしいことと語り伝えられているものとしては、かの不老不死の薬にまさるものはないでしょう。 その昔、天竺では耆婆という人はこの薬を伝え聞いて、自らもこれを服して、生きながら天上に行って大仙人となったということで…

不老不死⑥-異郷譚2ー

下 その三 さて日本に不老不死の薬が伝来して知られることに関しては、神代の昔少彦名命(すくなびこなのみこと)と申すた御神は、薬の道をもって天上下地あらゆる人々を施療して病を癒し、諸々の御神には不老不死の妙方を授け申し上げなさいましたので、諸…

不老不死⑤-異郷譚2ー

下 その二 また秦の始皇帝は徐福という仙人にお命じになって、蓬莱山の不老不死の薬を求めさせなさいましたが、海は漫々として雲の波煙の波が立ちこめて影さえ見えませんでした.。風に任せ舟に任せて行きますと、南の海の中にひとつの山を見つけたのですが、…

不老不死④-異郷譚2ー

下 その一 さて、誘われるままに奥に入りますと、竜神は衣冠を正して出迎えて、孫子邈を七宝の曲彔に座らせ、自ら曲彔の椅子を横に並べ、礼儀に則った様子です。海の中全体にお触れを遣わして珍しい客人をもてなしました。海の各々は参上して接待をいたそう…

不老不死③-異郷譚2ー

上 その三 唐の時代に孫子邈(孫思邈、そんしばく)という者がいました。生来薬の道に詳しく、人の病を癒す方法にはこの上なく明晰でありました。その孫子邈がある時道を行くと俄かに空がかき曇り黒雲が四方に垂れこめて、夜の帳をおろすように暗くなり、墨…

不老不死②-異郷譚2ー

上 その二 また唐土の古代では、三皇五帝のその昔、神農と申した聖人がいらっしゃいました。天下を保ち国を治め民の病を憐れんで、草木の味わいを嘗め分けて、薬というものを始めて施しなさった方です。体を養い性を養い命を延べるために、上品・中品・下品…

不老不死①-異郷譚2ー

上 その一 昔から今に至るまで素晴らしいことと語り伝えられているものとしては、かの不老不死の薬にまさるものはないでしょう。 その昔、天竺では耆婆という人はこの薬を伝え聞いて、自らもこれを服して、生きながら天上に行って大仙人となったということで…

蓬莱物語全編-異郷譚1ー

室町物語(広義でいう御伽草子)には異郷を扱った物語が多数あります。「中世小説の研究(市古貞次氏)」の分類では、「異郷小説」と呼びます。異郷そのものをテーマとしたものとしは、「蓬莱物語」「不老不死」がありますが、テーマは本地物だったり怪婚談…

蓬莱物語④-異郷譚1ー

第四 さて、紀伊の国名草の郡に、安曇の安彦といって釣を生業とする海士がいましたが、春ののどかでうららかな波に小舟を浮かべて、沖つ方に漕ぎ出して漁をしていたところに、にわかに北風が吹きおろして、波が高く上がって雪の山のようになります。安彦は心…

蓬莱物語②-異郷譚1ー

第二 我が朝では神代の昔、天照太神が天の岩戸に閉じ籠もりなさって、国中が常時闇夜となってしまいました。その時八百万の神々が岩戸の前で嘆きなさって、「どうにかしてもう一度太神に岩戸からお出でいただきたい。」とさまざまなはかりごとをめぐらしなさ…

蓬莱物語③-異郷譚1ー

第三 中国では秦の始皇帝の時、天下がことごとく定まって、始皇帝は御身の栄華が比類ない事には満足しながらも、つらつら心の内でお考えになる事には、「たとえ天下を掌(たなごころ)のうちに収めたとしても年が重なれば齢は傾き、我が身は老いて最後には、…

蓬莱物語①-異郷譚1ー

室町物語(広義でいう御伽草子)には異郷を扱った物語が多数あります。「中世小説の研究(市古貞次氏)」の分類では、「異郷小説」と呼びます。異郷そのものをテーマとしたものとしは、「蓬莱物語」「不老不死」がありますが、テーマは本地物だったり怪婚談…

塵荊鈔(抄)⑯ー稚児物語4ー

第十六 広く諸経の文言を見ると、六道における衆生は、その苦しみはまちまちである。 第一に、地獄道は、熱い鉄が堆く地に積もり、溶けた銅が河と流れて、鉄の城の四面は、猛火が洞然として激しく燃えている。研刺磨擣の苦しみで、飢骨は油を出し、刀の山、…

塵荊鈔(抄)⑮ー稚児物語4ー

第十五 このようにして新発意となった花若は、師匠や同朋との別離がこらえようもなく悲しく、事に触れて大衆に交わることも空しく思われて、無常の思いばかりが心に染みて、常に静かに物思いなさっているのでした。「この世に飽きて、その秋(あき)風ではな…

塵荊鈔(抄)⑭ー稚児物語4ー

第十四 さて、花若殿は、朋友の玉若殿との別れといい、頼りになさっていた師匠との御別れなど、あれこれ世を厭う思いがますます深くなっていき、「いつまで他の人が先立って、最期に行く死出の道を嘆くのだろうか。恩愛別離の悲しみ、老少前後の恨み、何事が…

塵荊鈔(抄)⑬ー稚児物語4ー

第十三 そうしているうちに右方の舞手が「新鳥蘇」という、鳥類の楽を舞っている最中に, 虚空から白鷹が、千部経の結縁(法会)のためにでありましょうか、舞下りてきました。 およそ吾が朝での、放鷹(鷹狩)の起源を申し上げますと、人皇十七代の帝、仁徳…

塵荊鈔(抄)⑫ー稚児物語4ー

第十二 そうしているうちに法会の日にもなったので、庭の前には宝樹宝幡(金銀や玉で飾った木や幡)を立てて、堂内の荘厳(厳かな飾りつけ)は金銀をちりばめ宝石を磨いて飾りつけます。導師である師匠の大阿闍梨の相好(表情)は、まるで釈尊が威儀を正して…

塵荊鈔(抄)⑪ー稚児物語4ー

第十一 文の途中ですが、話題が「鏡」に変わるので回を改めます。 (玉若の夢を花若が叡山の衆徒に語ったが、) 比叡山三塔の大衆は衆議して、「鏡を置くのは問題ないだろう。」と議定なされましたが、ある若い衆徒の中から、「舞の座敷に水鏡を置くのは危な…

塵荊鈔(抄)⑩ー稚児物語4ー

第十 夜も明け方になろうとして、寒々とした磬の音は尽きて読経も果ててしまいました。花若殿もしばらく睡眠に入りなさると、玉若殿が鮮明に夢の中に現れてお告げをなさいます。 「私は運命の定めがあって、人の身を変じはしましたが、まだこの土に宿縁があ…

塵荊鈔(抄)⑨ー稚児物語4ー

第九 その後、比叡山全山で衆議があって、彼の葬送の地に一囲のお堂を建立し、玉若殿の肖像を据えて、三千人の大衆が千部の法華経を頓写(一日で書き写す事)して菩提を弔いなされました。 ある時、花若殿が御影堂に参拝し御覧になると、いつしか人気のない…

塵荊鈔(抄)⑧ー稚児物語4ー

第八 以下玉若の遺書 「それにしてもまあ、竹馬で遊んだ春のころから、同じ桜の花簪を挿したその桜の木の本で、師匠と花若殿と三世の契りを交わした言葉も、今となっては空しくなってしまいました。今、十五の秋の末となって、別れが近づこうとしていますが…

塵荊鈔(抄)⑦ー稚児物語4ー

第七 さて、霊魂となった玉若殿は、偕老同穴を深く語り合った花若殿、また鴛鴦の袂を重ね合うように睦んだ僧正、「芝蘭断金」といった深い契りを結んだ同宿朋友らを振り捨ててたった一人、黄泉中有の旅に赴いて、生死の長い闇の路にお迷いなさっているのは憐…

塵荊鈔(抄)⑥ー稚児物語4ー

第六 日数を経ていくと弥(いや)増しに心の月を掩っていき、胸につきまとうのは雲と霧で、心が晴れわたることはありません。玉若殿は、「むなしくはかない露のような我が身を、宿す草葉のような所に風が吹き添って露を飛ばすように死んでいくことは、嫌だと…