religionsloveの日記

室町物語です。

あしびき⑭ーリリジョンズラブ2ー

巻三 第一章

 東南院では若君の行方が分からないので、急いで得業の邸を訪ねたが、「こちらにもいません。」と言うので、驚きあきれるばかりであった。これはただ事でないと捜させた。得業はあれこれと心当たりをたどったが思い当たるところはなかった。

 ところが、若君に仕える中童子が、「白河の宿所でお遊びになった山の人のことを常に話題にして、その方の行方をお訪ねしたいと言っておりました。もしやそのようなところ(比叡山)へでも行かれたのでしょうか。」と言った。若君のめのとで永承坊の上座の覚然というものが、「それならば私が山へ上って、谷谷を訪ねましょう。」と比叡山に向かって出立した。

 覚然は西坂本で会った人に、「このようなことをもしかしたら聞き及びあるか。」と問うと、「某の僧房に、たいそう評判になっていることがそうですよ。」と言うのをさらに詳しく尋ねて、律師の僧房へと行った。

 覚然と対面する侍従に、房を取り囲む若い山法師たちは、「もし稚児を奈良に帰すようなことがあったとしたら、我々衆徒は蜂起してこの房を咎めようぞ。」と何度もいい送った寄こした。そうはいっても覚然が、父得業がつらく嘆いていることを侍従に、繰り返し説き伏せて、「この度いったん下山しても、すぐにでも再び登山いたしましょう。」と言うのを、律師も聞いて、「得業殿の心に背いてはかえって後後うまくいかないこともあろう。お互いの思う心は深いのだから、かりそめに下ったとしても、急いで帰り上れば、どちらもうまくおさまるだろう。では侍従の君よ、奈良まで若君に同道して行け。得業殿にお目にかかって、このことを申せば、まさか異議もござらぬであろう。」などと教え諭すと、若君も侍従も同じ考えで、居合わせた大衆たちにも納得させた。

 律師としても相手は奈良、粗相なきよう準備万端整えて、侍従を供として若君を送り出した。

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参照 芦引絵

 

(注)めのと=男の場合は養育係、女の場合は乳母を指す。