religionsloveの日記

室町物語です。

あしびき⑮ーリリジョンズラブ2ー

巻三 第二章

 奈良に行きつくと、得業はことのほか喜び、「ちょっと人の相談することがあって、白河に行った折に、たまたま幼い人とお会いになったと伺って、よいついでもなかったのでそのままにしておりました。この子がなんの分別もなく、山まで訪ねたのはあなたへの思いが深かったからでしょう。これほどの思いと知っておりましたならば、子を思う心の闇のように暗く深いのにつけてもどうにかして私の方から参上すればよかったのですが・・・」などと言った。

 侍従は、若君に志浅くないことは罪深いことだと思われたが、さすがにそれをいうのは気が引けて黙っていた。

 「房主の律師様も、『必ずずっと山にいられるように取り計らうので、きっと仏のみ心にもかなうでしょう。とよくよく申し上げよ。』と申しておりました。」などと語ったところ、得業は、「そのことはどうするにせよ、幼き人の心に任せましょう。」と言うので、若君は障子の内に立ち聞きをして、秘かに喜んでいた。そこで得業は内に入って、「どうしたものだろう。」と若君に問うと、それが最もふさわしいことで、自分も住山したい旨を、大人びた態度で言うので、「それならば、そのように計らおう。」という事になった。

 得業は、ニ三日侍従を引き留めて、人柄や心映えをさりげなく観察すると、何事につけ風流のたしなみのある様子で、ますます好感が持たれ、我が子が想いを寄せるのもむべなるかなと思われた。それに、山側も、若君の住山を確約してくれるとの趣なので、得業はかえすがえすもうれしく、山からお迎えに来る日などを約束して、侍従は帰っていった。

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参照 芦引絵



 

(注)罪深いことだ・・・=不明。得業が若君を溺愛するのが罪深いのか、若君のとっ

    て侍従を愛することが罪深いのか、侍従が若君を愛することが罪深いのか、解

    しかねる。あるいは別解があるのか。