巻一 第二章
律師は侍従を山へ迎え入れ、改めて対面した。容姿が非常に優れているだけではない。心映えも優雅で、全てを心得ているように思われる聡明さも兼ね備えていた。
律師は、心の内でよき法嗣を得たと、なみなみなく期待をかけた。房中だけでなく、近隣に人々も、この稚児に折につけ、心を配った。
侍従の君は学問の家に育ったのだから、詩歌の道に秀でていたのは言うまでもない。それだけではなく、管絃の道にも非凡の才能を発揮させていた。まさに天賦の才と、人々は驚嘆の目で侍従を見ていた。
そのようであるから、春の氷が溶ける日には、「こほりゐし志賀の辛崎うちとけてさざ波よする春風ぞ吹く」と詠んだ江都督の往時を偲んで琵琶湖に遊んだり、冬の雪が積もる朝には「香炉峰の雪は簾を撥(かか)げて看る」と和漢朗詠集に吟じられた香炉峰の雪景色を思いやりながら、比良の高嶺を訪ねたりなどと、時に触れ折にしたがって、風流の楽しみのうちに日々を過ごしていった。