religionsloveの日記

室町物語です。

あしびき⑩ーリリジョンズラブ2ー

巻二 第三章

 若君は人家を見て門を敲いて、宿を貸してほしいと申し出た。宿の主は不審に思って、「この里人はそうでなくても見知らぬ人を泊めませんよ。まして旅の宿は日が暮れて借りるものなのに、月が西に傾いて通常なら出立を急ぐはずの暁に泊めてほしいとは、非常識にもほどがあるよ。」とひどくなじって言うが、答えに窮してただ涙ながらに、「特に人目を忍ぶことがあって夜通し歩いたのでございます。」と訴えると、主の方も、どうもいわくがありそうだが高貴な方のようだと、おもむろに戸を開けてみると、年頃の非常に美しい稚児が夜露にぐっしょり濡れて立っていた。

 見るからにいたわしげで、たとえどんな鬼神だとしてもこれは放ってはおかないだろうと、「それならば中へおはいりなさい。」と言って邸内に入れながら、「どんな理由でどこへ行こうとしているのですか。馬にも乗らずこんな身なりではだしで歩くとは・・・」などと質問するが、稚児は子細は語らず、ただ「白河の辺りに秘かに訪ねたい人がいて、にわかに出立したのですが、これから先の道がわかりません。でも、どうしても行きたいのです。」と言った。

 その様がいかにもつらそうなので、主はかわいそうに思って、あれこれと気を使い世話をして、「今日くらいはここで足をおやすめなさい。」親切に引き留めたが、「急いでいるからこんな身なりで出かけたのですから。」と、疲れが取れ、道さえ分かれば飛び出しそうな気配である。主は、その切羽詰まって態度に心動かされ、馬・鞍・下人に至るまで取り計らって若君につけて、白河の宿へと送った。

 その好意には、申し訳なくも有り難く、「どこまでも自分の足で行くべきだったところを、宇治のお宿を頼って、かくも情けをかけていただいたことは、感謝してもし足りないくらいです。」と何度も何度もお礼を申し上げて、人馬を宇治に帰した。

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参照 芦引絵

 

(注)はだし=原文では「かちはだし」となっているが、「芦引絵」では草履らしきも

    のを履いている。