religionsloveの日記

室町物語です。

2021-02-01から1ヶ月間の記事一覧

嵯峨物語⑦ーリリジョンズラブ5ー

本文 その5 過日の詩席は思い出しても、この上なく心慰められることではありましたが、今は松寿君の事ばかりが心にかかって他には何も考えられません。「自分らしくもない。世を捨てて、世にも捨てられた自分がこのように悶々としていいはずがない。」と悩…

嵯峨物語⑥ーリリジョンズラブ5ー

本文 その4 一条殿は夜が明けたので、下法師の案内で寺々を 見歩いていると、僧都殿が現れて、昨日来のことを法師から聞いて挨拶をします。 「ありがたいことです。よくお訪ねくださいました。わざわざ春に家を出なくても、月の夜には閨の中にいながらでも…

嵯峨物語⑤ーリリジョンズラブ5ー

本文 その3 あまたこの僧房を訪れた人々の中でも殊に風雅を覚えたのは、 一条郎と申す方でしょう。 一条郎殿は、志深く高潔な方で、今の世は人が人としての信義節操を果たさず、放恣に流れているのを嘆き、 「世の人は賢げな物言いばかりするが、心のこもら…

嵯峨物語④ーリリジョンズラブ5ー

本文 その2 松寿君が弥生三月に門を敲いた庵のある山里は、都からはさして遠いところではなかったのですが、世間からは隔絶した住みぶりで、行き交う人も稀でした。峰々に繁っている松の木の下陰で柴木を取りに来た山賤(やまがつ)が斧を振るう音がコーン…

嵯峨物語③ーリリジョンズラブ5ー

本文 その1 近来の人の書きなさった文章を見ると、 男色があることは、西域・中華・本朝どの人々も漏れなくいっています。その文章にあるように、この道はこの道は世々を経て絶えることはないので、人が知らない思い草のような思いの種も、葉の末に結ぶ露の…