religionsloveの日記

室町物語です。

あしびき⑬ーリリジョンズラブ2ー

巻二 第六章

 そのまま夜を明かすわけにもいかないので、侍従は若君の手を引き、自分の僧房へと誘った。若君は侍従の部屋に旅の具足があつらえられていて、すぐにでも修行の旅に出ようとしていた様子が見て取れたので、きっと侍従の方でも、つらい気持ちでその心を晴らすように旅に出ようと思っていたのだなあと推察されて、侍従を恨む気持ちも多少は緩んだ。二人は日ごろの切なかった気持などを夜通し語って、泣いたり笑ったりしているうちに、秋に夜長は明けてしまった。

 早朝、侍従は律師に呼び出された。「侍従よ、この頃おぬしはどういうことか、以前と違って、つらそうな様子だと見ておったが、よい折もないので気にかかってはいたが声もかけないでおった。年寄りは眠りが浅いでのう。おぬしが毎夜苦吟しているのも、うつらうつらであるが承知しておった。ところが昨夜、耳を傾けておると、どういうわけかいつもと打って変わって、気持ちよさそうに語らいなどしておるので、それはそれ、うれしいこととは思ったが、詳しいことがわからぬゆえ・・・」と言うので、これは最後まで隠し通すことはできないと、一部始終をありのままに語った。

 律師はこれを聞いて、「このようなことがあったとは、まったく思いもよらなかった。まことに珍しいことである。それほどの美童であるなら、醜き老法師であるし、おぬしもかくおいぼれを師匠として引き合わせるのは恥ずかしいと思うかもしれないが、すぐにでも見参させなさい。」と、熱心に言うので、稚児にこれこれと言ったところ、「このようにやつれた姿をお見せすることは、憚り多いことですが、あれこれ言い訳してお伺いしないのもかえってよくないことでしょう。どのようにもお取り計らいなさいませ。仰せに従いましょう。」とさわやかに言った。逢瀬を果たして若君は晴れ晴れとしている。侍従は涙にぬれて寝乱れた若君の髪をかき撫でて、身づくろいさせて律師のもとに連れて行った。

 慣れぬ遠路の旅で、顔はやせて黒ずんではいるが、やはり並の人とは違って、気高さは格別で、誰の目にも魅力的で美しく見える。

 律師がさまざまにもてなすのを、近隣の人々も次第に漏れ聞いて訪れては、「全く優雅な方だなあ。」と心慰められる思いで稚児を見た。ある時は詩歌・管絃など情趣ある遊びを、ある時は乱舞・延年の興趣ある技の限りを尽くして、誰もがたいそう感動して楽しむうちに、十余日が過ぎていった。

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参照 芦引絵

 

(注)乱舞=酒宴などで楽器に合わせて踊り乱れること。ラップともいう。

   延年=延年舞。寺院で盛んにおこなわれた歌舞。