巻二 第四章
得業が逗留した白河の宿所に着くと、主は喜んで迎え入れた。
「そういえば、奈良へ下向いたしました日の夕べに、山の人とか申す者が若君に行方を訪ねて参りましたぞ。もはや奈良へ下りましたと告げたところ、ひどくがっかりして、『普段から奈良より便りはあるのですか。』と尋ねられたのですが、どうにも連絡取りようもなかったのですが・・・やっと若君にお伝えすることができました。」などと話した。
やはり、侍従の方でも私のことを気にかけていたのだと、しみじみうれしく思って、「その人のいるところは伺っておいでですか。」と聞いたが、「どうして知りましょうか。」と答えるばかりなので、その日はとりあえず白河に一泊した。
山の人を話題に出した上は、あれこれ詮索もされ、噂にされるのも面倒なことと、ぐずぐずしていても仕方ないと、しののめの空が白んで茜雲の横たわる頃、ちょっと庭先に出るような素振りで白河を出て、大比叡の麓を巡るように西坂本を辿って行った。
一方宿所では若君がいないと探し回るが、まさかか弱いあの若君が単身比叡山に登ろうとは思いもよらず騒ぎあっているばかりであった。
赤山禅院の前を過ぎて、大原の方にさしかかった所で出会った法師に、「比叡山はこちらを上るのですか。」と問うと、「こちらではありません。」と、鷺ノ森の方を指して教えられ、あちこち辿るうちに酉の刻の初めごろには不動堂に着いた。日のあるうちは人目もあって、草の陰に隠れて日暮れを待っていた。