religionsloveの日記

室町物語です。

あしびき⑤ーリリジョンズラブ2ー

巻一 第五章

 次の日も侍従は隣家に立ち寄って、昨夜の邸を窺った。すると御簾の内から十四五ほどの稚児が縁側に立ち現れた。「これがあの琵琶の音の主なのだろう。」と見た。

 用紙、人品、立ち居振る舞い髪の筋が垂れ下がっている様子も、波一通りでなく透きとおるような美しさで、まばゆいものを見るように見惚れていた。

 どのように言葉をかけようとも、手掛かりも思い浮かばなかったが、ただもう心を奪われて、葦垣の隙間を見計らってすっと入り込むと、気づいた稚児はとてもきまり悪く、驚きうろたえた様子で顔を赤らめて、簾の中へ隠れたが、それでも侍従の様が風情ある雰囲気に思われたのか、こちらを振り返っているようだ。その姿を簾を透かして見た侍従は、

 玉だれのみず知らずとや思ふらむはやくもかけし心なりけり

 (玉で作った御簾の中にいる君よ、私があなたを見ず知らずのものと思っているので

  すか。私は以前からあなたに心をかけていたものですよ。)

 と口ずさむと、若君は恥ずかしくてよくも聞いていない様子で、

 おぼつかないかなる隙にも玉だれの誰か心をかけもそむべき

 (疑わしいことですよ。だれがどんな隙間から、御簾の中にいる私に心を懸け初める

  ことができるというのですか。)

 と言って、とぼけながらもなお簾の傍らに立っているので、侍従は縁の際まで近寄って、気の利いた言葉で言い寄ろうとしたが、稚児の態度が冷たくそっけなく感じられたので、なんとなくためらわれて、それ以上どうすることもなく立ち帰った。

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参照 芦引絵

 

 

(注)葦垣=葦を組んで作った垣根。

   玉だれの=御簾の枕詞。みすは御簾と見ずの掛詞。御簾と懸けは縁語。