religionsloveの日記

室町物語です。

2023-01-01から1年間の記事一覧

富士の人穴の草子①-異郷譚4ー

「異郷譚」の四番目に取り上げるのは「富士の人穴草子」です。前半は異郷譚っぽいのですが、後半は地獄めぐりの様相です。地獄は異郷とはいえませんね。刊本写本も多く有名な話なので紹介するまでもないのかもしれませんが、お付き合いください。 原文は「室…

かくれ里(劉阮天台)-異郷譚3ー

「異郷譚」の三番目に取り上げるのは「かくれ里」(赤城文庫蔵)です。「室町物語大成」によれば、寛文か延宝ごろ(17世紀後半)の絵巻だそうです。題を欠いているため仮に「かくれ里」とつけたようですが、内容は「劉阮天台」呼ばれ画題にも採られている…

不老不死全編-異郷譚2ー

上 その一 昔から今に至るまで素晴らしいことと語り伝えられているものとしては、かの不老不死の薬にまさるものはないでしょう。 その昔、天竺では耆婆という人はこの薬を伝え聞いて、自らもこれを服して、生きながら天上に行って大仙人となったということで…

不老不死⑥-異郷譚2ー

下 その三 さて日本に不老不死の薬が伝来して知られることに関しては、神代の昔少彦名命(すくなびこなのみこと)と申すた御神は、薬の道をもって天上下地あらゆる人々を施療して病を癒し、諸々の御神には不老不死の妙方を授け申し上げなさいましたので、諸…

不老不死⑤-異郷譚2ー

下 その二 また秦の始皇帝は徐福という仙人にお命じになって、蓬莱山の不老不死の薬を求めさせなさいましたが、海は漫々として雲の波煙の波が立ちこめて影さえ見えませんでした.。風に任せ舟に任せて行きますと、南の海の中にひとつの山を見つけたのですが、…

不老不死④-異郷譚2ー

下 その一 さて、誘われるままに奥に入りますと、竜神は衣冠を正して出迎えて、孫子邈を七宝の曲彔に座らせ、自ら曲彔の椅子を横に並べ、礼儀に則った様子です。海の中全体にお触れを遣わして珍しい客人をもてなしました。海の各々は参上して接待をいたそう…

不老不死③-異郷譚2ー

上 その三 唐の時代に孫子邈(孫思邈、そんしばく)という者がいました。生来薬の道に詳しく、人の病を癒す方法にはこの上なく明晰でありました。その孫子邈がある時道を行くと俄かに空がかき曇り黒雲が四方に垂れこめて、夜の帳をおろすように暗くなり、墨…

不老不死②-異郷譚2ー

上 その二 また唐土の古代では、三皇五帝のその昔、神農と申した聖人がいらっしゃいました。天下を保ち国を治め民の病を憐れんで、草木の味わいを嘗め分けて、薬というものを始めて施しなさった方です。体を養い性を養い命を延べるために、上品・中品・下品…

不老不死①-異郷譚2ー

上 その一 昔から今に至るまで素晴らしいことと語り伝えられているものとしては、かの不老不死の薬にまさるものはないでしょう。 その昔、天竺では耆婆という人はこの薬を伝え聞いて、自らもこれを服して、生きながら天上に行って大仙人となったということで…

蓬莱物語全編-異郷譚1ー

室町物語(広義でいう御伽草子)には異郷を扱った物語が多数あります。「中世小説の研究(市古貞次氏)」の分類では、「異郷小説」と呼びます。異郷そのものをテーマとしたものとしは、「蓬莱物語」「不老不死」がありますが、テーマは本地物だったり怪婚談…

蓬莱物語④-異郷譚1ー

第四 さて、紀伊の国名草の郡に、安曇の安彦といって釣を生業とする海士がいましたが、春ののどかでうららかな波に小舟を浮かべて、沖つ方に漕ぎ出して漁をしていたところに、にわかに北風が吹きおろして、波が高く上がって雪の山のようになります。安彦は心…

蓬莱物語②-異郷譚1ー

第二 我が朝では神代の昔、天照太神が天の岩戸に閉じ籠もりなさって、国中が常時闇夜となってしまいました。その時八百万の神々が岩戸の前で嘆きなさって、「どうにかしてもう一度太神に岩戸からお出でいただきたい。」とさまざまなはかりごとをめぐらしなさ…

蓬莱物語③-異郷譚1ー

第三 中国では秦の始皇帝の時、天下がことごとく定まって、始皇帝は御身の栄華が比類ない事には満足しながらも、つらつら心の内でお考えになる事には、「たとえ天下を掌(たなごころ)のうちに収めたとしても年が重なれば齢は傾き、我が身は老いて最後には、…

蓬莱物語①-異郷譚1ー

室町物語(広義でいう御伽草子)には異郷を扱った物語が多数あります。「中世小説の研究(市古貞次氏)」の分類では、「異郷小説」と呼びます。異郷そのものをテーマとしたものとしは、「蓬莱物語」「不老不死」がありますが、テーマは本地物だったり怪婚談…