religionsloveの日記

室町物語です。

塵荊鈔(抄)⑤ー稚児物語4ー

第五 「あなたとても岩や木でできている身の上ではごさいますまい。心の底に秘めている恋心をお語りなさい。」 と僧正が責めておっしゃると、玉若殿はこれを聞いて、 「まことにおっしゃることは道理です。さほど遠くない昔の事でしょうか、俊恵法師といった…

塵荊鈔(抄)④ー稚児物語4ー

第四 また、ほどほど昔の頃か、嵯峨開山(嵯峨山大覚寺開祖恒寂上人?)がまだ若年で石侍者と申していた頃、仏法修行をして、諸国諸寺を遍参して、当山(比叡山)にお上りになりました。頃は二月半ばの事で、さる院家の庭の梢は、まるで大庚嶺の梅が風に匂い…

塵荊鈔(抄)③ー稚児物語4ー

第三 巻2から巻10までは花若・玉若の記述は多少の問答はあるようですが、ほとんど見えないようです。(精読したわけではありませんが。)ですから③は巻11冒頭から始めます。 早物語の盲僧が情感たっぷりに玉若・花若・師匠の情愛を語ったのでしょうか。…

塵荊鈔(抄)②ー稚児物語4ー

第二 比叡山の事 そもそもこの二人の少年のいらっしゃった天台山と申しますのは、元の名は日枝山でした。これは(京都盆地・平安京から見ると)朝日がこの山から出てきて次第にその枝を昇っていくので名付けられたのでした。太陽の出る所にあるという神木の…

塵荊鈔(抄)①ー稚児物語4ー

「塵荊鈔」は室町時代成立の「類書(百科事典)」といっていいのでしょうか。問答体で書かれていて、仏教・文字・和歌・連歌・物語・歴史・武具や遊芸、音楽など広範の事象について解説された書物です。これ一冊あれば、僧侶や武士としての教養が網羅できる…

花みつ全編ー稚児物語3ー

「花みつ」は「室町物語大成」には、10巻に「花みつ」「花みつ月みつ」が、補遺2巻に「月みつ花みつ」が所収されています。あらすじはほぼ同じですが、表現には多くの違いがあります。このブログでは「花みつ」を基本として、「花みつ月みつ」(以下「花…

花みつ⑦ー稚児物語3ー

下巻 その5 さて、里への手紙と書かれたものには、 母上に死に別れてこの方、羽のない鳥のような心地がして、日々を過ごしていま したが、別当の御心に背くのみならず、頼みと思っていた父にも不興を買い、誰を 頼りに月日を送り申し上げましょうか。専ら、…

花みつ⑥ー稚児物語3ー

下巻 その3 大夫・侍従はそ知らぬふりをして傍らでこっそりと、「ああ花みつ殿が幼かった時から愛おしく思っていたので、無道な事も承知したせいで、思いもよらずこの人にたばかられて、我々が自ら手を掛けたとは無念。こうして悩んでいても苦しいばかりだ…

花みつ⑤ー稚児物語3ー

下巻 その1 しばらくして花みつ殿は、「言い出すにつけても、それぞれのお思いになる事を考えると、恥ずかしくは思いますが、私が今父上に憎まれていることをつくづくと思うと、父の寵愛が月みつに変わった事は無念です。私にとって月みつは仇のようなもの…

花みつ④ー稚児物語3ー

上巻 その7 岡部は心中、「ここで言い出すよりは、とりあえずは帰って改めて手紙で申し上げてみよう。」と思ってお帰りになる。花みつ殿は、さすがに父が恋しく、妻戸の陰に寄り添うように立って、父が帰るのを見て涙を流しなさっていると、岡部も気づいて…

花みつ③ー稚児物語3ー

上巻 その5 別当を始め人々は、「かわいそうに、花みつ殿は母に先立たれて、いつの間にか父さえ心変わりして、疎(おろそか)かに扱うように見えなさるにつけても、先ずは月みつ殿をいとし子と思っているのだろう。」と思って待遇し(月みつの方を大切に扱…

花みつ②ー稚児物語3ー

上巻 その3 次第に日が暮れていくので、岡部と別当は互いに暇乞いして、岡部は花みつに向かって言った。「今日からおまえはここに預け置こうと思う。別当の御心に背くことなく、よく学問に励み、父の名誉ともなって、自身も徳を身に付けなさい。月みつもい…

花みつ①ー稚児物語3ー

「花みつ」は「室町物語大成」には、10巻に「花みつ」「花みつ月みつ」が、補遺2巻に「月みつ花みつ」が所収されています。あらすじはほぼ同じですが、表現には多くの違いがあります。このブログでは「花みつ」を基本として、「花みつ月みつ」(以下「花…

稚児今参り全編ー稚児物語2ー

「稚児今参り」は僧侶と稚児の恋愛を描いたものではありません。稚児と姫君との恋愛ですから厳密には、稚児物語ではないかもしれませんが、主人公が比叡山の稚児ですので取り上げてみました。 室町物語大成9巻に岩瀬文庫蔵の*奈良絵本が翻刻されています。…

稚児今参り⑧ー稚児物語2ー

下巻 その10 何日か過ごしていると、姫君の夢に、父大臣や奥方の御嘆きなさる様子ばかりが何度も何度も現れるので、「きっと私のことを心配して嘆いているのだわ。」と思いなさっているのを、乳母は傍で見て、かわいそうに思い、「どうにかして父上母上に…

稚児今参り⑦ー稚児物語2ー

下巻 その7 乳母は稚児が失踪した後は、尼となって一筋に勤行をして稚児の後生を弔っていた。それ以外は明け暮れ泣いているばかりであった。 後夜の勤行で夜明け近くまで起きていると、妻戸を叩く音がする。「門を開ける音もしないのに。」と不思議に思いな…

稚児今参り⑥ー稚児物語2ー

下巻 その4 さて、邸を出るには出たが、夜は深く行き交う人もいない。「どこにいったらいいのかしら。」となにも思い浮かばず立ちつくしていると、樵(きこり)らしき者がニ三人、山の方へ歩いていくのでついていきなさる。一行は山の険しい方へと行くので…

稚児今参り⑤ー稚児物語2ー

ここからは「絵巻」の欠損も多く、「奈良絵本」で補うことが多いのですが、その際、文脈を考慮して恣意的になることをご了承ください。明らかに欠落したと思われる所は本文を補って訳しましたが、奈良絵本の方が加筆したように思われる所は、両方の訳を併記…

稚児今参り④ー稚児物語2ー

上巻 その10 姫君は今参りを、心から気を許せる女房だとお思いになっているが、一方稚児は「思いがけず思い焦がれる心の内が抑えられず、打ち明けたならば、うって変わって疎ましく思うのではなかろうか。」とおのずと思い患われるのだが、姫君の春宮への…

稚児今参り③ー稚児物語2ー

上巻 その7 乳母が衣や袴などをお着せしてみると、普通の女房と全く変わることないばかりか、上品で美しくさえ見える。乳母は意を得たりと喜んで稚児を牛車に乗せて、かの局へと赴いた。 吉日を見計らって御目通りをすると、女房たちが出てきて、会ってご覧…

稚児今参り②ー稚児物語2ー

上巻 その4 姫君の病状はすっかり回復なさったので、僧正は比叡山にお帰りになったが、稚児は乳母のもとにとどまった。 食事も全くとらず、ぼうっと物思いにとりつかれて病がちになっていると、比叡山からもひっきりなしに使者が遣わされて、医師も大騒ぎし…

稚児今参り①ー稚児物語2ー

「稚児今参り」は僧侶と稚児の恋愛を描いたものではありません。稚児と姫君との恋愛ですから厳密には、稚児物語ではないかもしれませんが、主人公が比叡山の稚児ですので取り上げてみました。 室町物語大成9巻に岩瀬文庫蔵の*奈良絵本が翻刻されています。…

稚児物語とその周辺—蹇驢嘶餘について全ー

蹇驢嘶餘とは 群書類従雑部45巻第490に「蹇驢嘶餘」が収められています。 「蹇驢」とはロバ、「嘶餘」はいななき。取るに足りない者のつぶやき、という意味でしょうか。室町末期から安土時代ごろの有職所実の随筆です。作者は未詳ですが、文中の言全と…

稚児物語とその周辺—蹇驢嘶餘について⑤ー

まとめ 「蹇驢嘶餘」はまだまだ続くのですが、後半部には稚児・童子に関する記述は多くありません。「山内文庫本」で確認できる本文はは活字本よりずいぶん長く、奥書があります。その末尾はこのように書かれています。 右蹇驢嘶餘一冊者不知誰人作愚按台家…

稚児物語とその周辺—蹇驢嘶餘について④ー

内容4 一 児公家息ハ。白水干着ル也。武家ノ息ハ。長絹ヲ着スル也。クビカミノ有ヲ水干ト云。無ヲ長絹ト云フナリ。イヅレモ菊トヂハ黒シ。中堂供養ノトキ。御門跡ノ御供奉。貫全童形ニテ仕ル也。其トキハ。空色ノ水干其時節ニ似合タル結花ヲ。菊トヂニシテ…

稚児物語とその周辺—蹇驢嘶餘について③ー

その3 次いで梶井門跡について詳しく書かれています。門跡はその1,その2でも比叡山ヒエラルキーの最上位に位置付けられます。この門跡とは皇族・貴族の子弟が出家して、入室している特定の寺家・院家で、山門(比叡山)では、円融(梶井)院(三千院とも…

稚児物語とその周辺—蹇驢嘶餘について②ー

内容2 右貫全話之。 と書かれた続きを読みます。ここからは筆者自身の知識でしょうか。まず山王七社について言及します。上中下七社で合計二十一社あるのですが、その上七社についてです。 次にその七座の公人(雑役)として中方(中間僧)では無職の衆徒、…

稚児物語とその周辺—蹇驢嘶餘について①ー

蹇驢嘶餘とは 群書類従雑部45巻第490に「蹇驢嘶餘」が収められています。 この後で署名等に触れられた部分があったのですが、その何十行が、新しい記事を上書きして間違えて更新してしまって、焼失してしまいました。(涙) 記憶を頼りに再生してみます…

稚児観音縁起 全編ー稚児物語1ー

「稚児観音縁起」「稚児今参り」「花みつ」は、稚児が登場する物語ですが、稚児と僧侶の恋愛譚ではありません。ですから「リリジョンズラブ」というサブタイトルを付けるのは憚られますが、広義には「稚児物語」でしょう。しかし稚児のありようは窺い知れる…

稚児観音縁起③ー稚児物語1ー

その3 その時の上人の心中はなんともやりきれない。鳥は死ぬ時はその声はや柔らかになるといい、人は別離の時はその言葉は哀切であるという。そうでなくても遺言の言葉だと思えば悲しいのに、このように来し方行く末の事を心を込めて何度も何度も言うので、…