religionsloveの日記

室町物語です。

あしびき㉖ーリリジョンズラブ2ー

巻五 第二章

 侍従は手負った者の傷を繕わせ、十四五日ほど奈良に逗留していたが、比叡山でも噂を聞き及んで、若僧・童子たちが数多く迎えに来たので、山へ帰らざるを得なくなった。

 そこで、得業と二人きりで対面した。「長い間病に苦しんでおりまして、快癒を待つうちに、音信もぷっつりと絶えてしまいました。思いがけず再びお目にかかってお言葉を頂戴しようとは。」などと挨拶すると、得業の方も、世にも珍しい宿縁だと繰り返し言って、「手前の小僧(禅師)のことは今はあなたのお望みの通りにいたしていただきとう思います。ただ私は年もずいぶん取って、余命いくばくもありません。それに、先祖伝来の所領も少々ございますし、あのこのほかには受け継ぐ者はおりません。是非にも、この度はあのこをならにとめおいてはくれませぬか。どこにいようともお二人はきっと兄弟のようにお心がつながっておいででしょう。」などと言うので、侍従も「もっともなお言葉でございます。」と承知して、「たとえ異なる宗門での隠遁の身になっても、露の命の絶えないうちは、一つの心であるでしょう。」と言った。お互いに別れたくないのは当然ではあるが、二人は別れの涙を抑えて、禅師の、君は奈良にとどまり、侍従は比叡山へと帰って行った。

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