religionsloveの日記

室町物語です。

2020-06-01から1ヶ月間の記事一覧

あしびき④ーリリジョンズラブ2ー

巻一 第四章 侍従はとある八月、中秋の十日過ぎに縁ある人と会う用事があり、白河の辺りに二三日逗留していた。夜が更けて曇りない名月が天高く浮かんでいた。かつての晋の王子猶が月を愛でて遥か剡中の戴安道を訪ねたという故事も思い浮かばれて気もそぞろ…

あしびき③ーリリジョンズラブ2ー

巻一 第三章 このようにして、ニ三年が経った。 実家の父からは頻りに文が届いた。出家の督促であった。隠士はそのつもりで預けたのであった。賞玩のために供したのではない。 律師としてはもう少し、俗体のままで修学させたい気もしたが、それも親御の本位…

あしびき②ーリリジョンズラブ2ー

巻一 第二章 律師は侍従を山へ迎え入れ、改めて対面した。容姿が非常に優れているだけではない。心映えも優雅で、全てを心得ているように思われる聡明さも兼ね備えていた。 律師は、心の内でよき法嗣を得たと、なみなみなく期待をかけた。房中だけでなく、近…

あしびき①ーリリジョンズラブ2ー

巻一 第一章 さほど昔のことではなかったが、二代の帝に仕えた儒林の隠士がいた。 この隠士は菅原の家風を継承し、 一筋に祖霊天神の霊力を頼みとして、大学寮でも蛍雪の功を積み、刻苦研鑽したので、学才の名声は朋輩の中ではだれにも引けを取らないほどで…

秋夜長物語(漢詩)ーリリジョンズラブー

秋夜長物語 観音変化作佳児 以媚惑人争万騎 焼寺燃経方便理 再興仏道是慈悲 平起支韻 書き下し文 観音は変化し佳児と作る 媚を以って人を惑わし争うこと万騎 寺焼け経燃えるは方便の理 再興は仏道是慈悲なり 通釈 観音は美童と変化し その媚態で人々を惑わし…

秋夜長物語(全編)ーリリジョンズラブー

序章 人はなぜ人を恋うてやまないのか。愛すれば愛するほど苦悩や艱難が待ち受けているのにどうして愛することをやめないのか。なにゆえに人は人を求めるのか。 我々は天地自然を愛する。理由などない。好きだから愛する。 春の花が樹頭に咲きほころぶ。その…

秋夜長物語㉕ーリリジョンズラブー

第二十四章 夢の内容を語り合った大衆の面々は思う。 「それでは、川に身を擲ったあの若君は、石山の観音様の変化であったか。我が寺門が焼失したのも、仏法を興隆し、衆生を救済する方便であったのか。」 三十人の衆徒は信心を肝に銘じて、たとえいかなる艱…

秋夜長物語㉔ーリリジョンズラブー

第二十三章 やがて大明神は、石段を上ぼり、社壇に入ろうとする。その時、通夜の大衆の一人、某の僧都が明神の前にひざまずく。涙を流しながら訴える。 「大明神、我々が三摩耶戒壇を建立したのは、勅許を求め、大方認められたいたからでごさいます。それを…

秋夜長物語㉓ーリリジョンズラブー

第二十二章 その後、園城寺の三摩耶戒壇建立の張本人の三十名は、焼き尽くされた三井寺に舞い戻る。しかし、この世の無常を嘆くよりほかすべがない。もはやここは我らが住むべき場所ではないのだ。長等(ながら)山を後にして離れ離れに仏の道を進むしかない…

秋夜長物語㉒ーリリジョンズラブー

第二十一章 旅人の語る年の程、衣装の様は疑いもなく梅若。 律師も童も全身から力が抜ける。その場に倒れ伏してしまいそうになる。 いや違う。ここはとにかく瀬田の唐橋へ。輿を舁く中間・下法師は言わずとも心得、前にも増して疾駆する。 唐橋に着く。と、…

秋夜長物語㉑ーリリジョンズラブー

第二十章 桂海は驚愕し、桂寿に手紙を見せる。 「これをご覧。何とも気がかりな歌。話はあとだ。子細は道すがら聞こう。まずは急ぎ石山へ。」 と駆け出す。童も続けて駆け下りる。 今の桂海、忍んで動くことはできない。あのいくさ以来、何かあれば桂海に忠…

秋夜長物語⑳ーリリジョンズラブー

第十九章 夜が明ける。梅若がつぶやく。 「ご門主様は、どこにおられるのでしょう。」 桂寿は記憶の糸を手繰る。宗の違いはあるが石山の座主とは親しい間柄だったような・・・ 「ひょっとしたら、石山寺に身を寄せているかもしれません。ここは、石山の観音…

秋夜長物語⑲ーリリジョンズラブー

第十八章 解放された道俗男女は散り散りに去って行く。 竜神は消え失せる。天に還ったか、淵に潜んだか。 桂寿が言う。 「若君の古里、花園をお尋ね申しましょう。」 目と鼻の先である。 若君は何とも答えず、ただ肯く。訪ねていくと、かつては甍を並べ栄華…