religionsloveの日記

室町物語です。

秋夜長物語②ーリリジョンズラブー

第一章

 「これほど遁世発心を願い立ってもかなえられないのは、邪魔外道が我を妨げているからであろうか、それならば仏菩薩の加護によってこの願いを成就させよう。」

 桂海は石山寺への参篭を思い立つ。観世音菩薩にすがって迷いを断とうと考えたのである。

 祈る。ひたすら祈る。

 両膝を地につける。次いで両肘。合掌して頭面を地に伏す。五体投地を繰り返す。頭面接足、一心に観音に頂礼する。

 一七日の間、「道心堅固証無上菩提」と祈り続ける。

 満願七日の夜、祈り果てて桂海は礼盤を枕にまどろむ。

 すると、仏殿の内から一人の稚児が立ち現れる。容色は美麗、言い表しようのないほどの艶やかさである。

 稚児は庭へと進み出る。桜の木陰に佇むと、散り乱れる花びらが雪のごとく降りかかる。青葉勝ちに縫いをしたその水干姿は、遠山桜に花が二度咲いたかと見まがうほどの美しさで、花びらを袖に包みながら、どこへ行くとも知れず、暮れゆく風景の中に消えて見えなくなる。

 と、夢より覚めて我に返る。

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(注)石山寺=本尊は如意輪観音

   礼盤=仏を礼拝するために導師が上がる壇。

   青葉勝ちに縫い=不明。青葉模様の刺繍を施したか?青葉色っぽい生地の水干な

    のか?縫い目が青葉色の糸なのか青葉綴じとでもいうべき縫い方なのか?