religionsloveの日記

室町物語です。

2022-06-01から1ヶ月間の記事一覧

塵荊鈔(抄)⑩ー稚児物語4ー

第十 夜も明け方になろうとして、寒々とした磬の音は尽きて読経も果ててしまいました。花若殿もしばらく睡眠に入りなさると、玉若殿が鮮明に夢の中に現れてお告げをなさいます。 「私は運命の定めがあって、人の身を変じはしましたが、まだこの土に宿縁があ…

塵荊鈔(抄)⑨ー稚児物語4ー

第九 その後、比叡山全山で衆議があって、彼の葬送の地に一囲のお堂を建立し、玉若殿の肖像を据えて、三千人の大衆が千部の法華経を頓写(一日で書き写す事)して菩提を弔いなされました。 ある時、花若殿が御影堂に参拝し御覧になると、いつしか人気のない…

塵荊鈔(抄)⑧ー稚児物語4ー

第八 以下玉若の遺書 「それにしてもまあ、竹馬で遊んだ春のころから、同じ桜の花簪を挿したその桜の木の本で、師匠と花若殿と三世の契りを交わした言葉も、今となっては空しくなってしまいました。今、十五の秋の末となって、別れが近づこうとしていますが…