religionsloveの日記

室町物語です。

2021-05-01から1ヶ月間の記事一覧

松帆物語(全編)ーリリジョンズラブ8ー

その1 さほど昔の事ではなかったが、四条の辺りに中納言で右衛門督を兼任している方がいた。中将である御子が一人いたが、それに続く御子が生まれず、寂しく思っていたが、ずいぶん経って年の離れた弟が生まれた。成長したらさぞ美しくなるだろうと思われる…

松帆物語⑧ーリリジョンズラブ8ー

その8 しばらくして伊予法師が言った。 「今まではつつみ隠していましたが、かの人亡くなってしまった上は憚ることもないでしょう。この方こそ宰相殿が恋しく思って泣いたという殿上人です。このように卑しい山賎(やまがつ)の身なりをしているのも、道中…

松帆物語⑦ーリリジョンズラブ8ー

その7 そうそう、一方の都では、侍従が身投げをしたとの噂が立って、左大将は慌てふためいた。 「無益に身勝手な慰みごとをして人の非難を受けることだ。それにしても惜しい人を失ったことだ。」 と悲しんではいたが、世間の人々でこの殿を擁護する者は一人…

松帆物語⑥ーリリジョンズラブ8ー

その6 左大将からは絶えず病を気遣う使いが来るが、相変わらずの病状を伝えるだけでうかがうこともなく日は過ぎて、長月にもなった。空しく月日を送ることは心細く、ともすれば露と競うかのように涙で袖を濡らすのである。 ある時、兄の中将殿が物詣でに出…

松帆物語⑤ーリリジョンズラブ8ー

その5 この事を聞いて侍従は耐え難く思い、 「私のせいで罪もない人に辛い目を見させているのは悲しい。今にも駆けつけてその淡路島の波音や風の声を一緒に聞きたい。」 と嘆き悲しんだが、一通の手紙さえ交わすこともできなかったので、もどかしい思いであ…

松帆物語④ーリリジョンズラブ8ー

その4 その頃、時の第一人者として思いのままに政治を執り行っていた太政大臣の御子で、左大将殿という方がいた。その御前で、源氏物語の雨夜の品定めではないが、夏の雨が静かに降って日も永い頃に、くつろいで世間話などを人々がしていた。そのついでに、…

松帆物語③ーリリジョンズラブ8ー

その3 岩倉の宰相は、花の下で見た侍従の面影が頭から離れず、命も保てそうもないほど悶え苦しんで、どうにか伝手を探し出して手紙を送った。 「過ぎし時、花の下で見るともなしに眺めて以来、あくがれ出た私の魂はいつまであなたの袖の中にとどまっている…

松帆物語②ーリリジョンズラブ8ー

その2 藤の侍従が十四歳になった春の頃、かつて慣れ親しんだ横川の法師や、京の町の風流な若君たちが来合せて、 「人が申すところによると北山の桜が今盛りだそうです。侍従の君もご覧になったらどうですか。ご一緒いたしましょう。」 などと口々に言うので…

松帆物語①ーリリジョンズラブ8ー

その1 さほど昔の事ではなかったが、四条の辺りに中納言で右衛門督を兼任している方がいた。中将である御子が一人いたが、それに続く御子が生まれず、寂しく思っていたが、ずいぶん経って年の離れた弟が生まれた。成長したらさぞ美しくなるだろうと思われる…