religionsloveの日記

室町物語です。

2020-05-01から1ヶ月間の記事一覧

秋夜長物語⑱ーリリジョンズラブー

第十七章 かような折に、手を縛られた一人の老翁が牢に放り込まれた。異様な風体である。齢はとうに八十を超えているであろう。淡路の国で捕らえられたという。 翁はうろたえる様子も、嘆く素振りもない。 「わしは天空で酒を飲んでおったのじゃ。したら、雲…

秋夜長物語⑰ーリリジョンズラブー

第十六章 梅若は、外の世界がどうなっているかなどとは知る由もない。ただ石の牢に押し込められて明け暮れ泣き沈んでいるばかりである。 と、外が騒がしい。 大勢の山伏が集まって四方山話をしているようだ。 ある子天狗が言う。 「我らが楽しみは、人の不幸…

秋夜長物語⑯ーリリジョンズラブー

第十五章 三井寺が戒壇を立てた。 これを聞いて山門には緊張が走る。 叡山にしてみれば、三井寺は勝手に分裂して山を下りた子寺のようなものである。親寺の延暦寺にすでに戒壇があるのに、どうして重ねて戒壇が必要あるのか。 そもそも、戒壇は伝教大師が、…

秋夜長物語⑮ーリリジョンズラブー

第十四章 園城寺の歴史は、延暦寺との確執の歴史といっていい。 672年頃創建された園城寺は、天智・天武・持統の帝が産湯と浸かった霊泉があって、御(三)井の寺とも呼ばれたという。 この古刹を中興したのが円珍である。 比叡山で修学した円珍は、入唐…

秋夜長物語⑭ーリリジョンズラブー

第十三章 若君がいなくなった。 扈従(こしょう)の童もいない。 門主の嘆きは並々でない。寺内をくまなく捜させたが、誰も知る人はいない。道行く旅人にも尋ねる。すると、坂本から大津に訪ねる旅人が、 「お尋ねのお若い主従、昨夕戌の刻であろうか、唐崎…

秋夜長物語⑬ーリリジョンズラブー

第十二章 霧が深い。 桂寿は梅若が初めて聖護院に来た日を思い出す。 鳰の湖に濃い狭霧が立ち込め、三井の寺も一間先さえ見定めることができない中、突如現れた一行。霧の底から湧き出でるように。雲の上から降臨するかのように。 わたしも寺に入って間もな…

秋夜長物語⑫ーリリジョンズラブー

第十一章 桂海は、夢とも現ともわからない梅若の面影と、自分のものとはいいながら己の袖に残る梅若の面影移り香をよすがとして山へ上る。 心しおれて人に語りかけられてもろくに返事もしない。泣くでもないのに自然と涙があふれ、抑える袖も朽ち果ててしま…

秋夜長物語⑪ーリリジョンズラブー

第十章 夜が明ける。聖護院の鹿鳴の宴も果てて、今は森閑としている。 桂海は梅若を見送ると、内には入らず、かといって去るでもなく門の石畳に立ちやすらいでいる。 桂寿が現れ、言葉なく文を差し出す。 開けてみると、言葉少なく、和歌が一首、 我が袖に宿…

秋夜長物語⑩ーリリジョンズラブー

第九章 律師はこれを聞いて、心浮かれ魂乱れ、地に足がつかない。 夜更けて、鐘撞く音をつくねんと聞き、月が南へ廻るのさえ待ちかねていると、白壁の門の戸を誰かが開ける音がする。書院の杉障子から見やると、例の童が魚脳提灯を持って立っている。 二人の…

秋夜長物語⑨ーリリジョンズラブー

第八章 「聖護院の目と鼻の先に顔見知りの衆徒の僧房がございます。私が頼めば大丈夫ですから、そこに暫くご逗留なさって、折々御簾の隙間を気にかけてご覧になってください。いずれ機会も訪れましょう。」 と童は自信ありげに強く誘う。房主が桂寿をお気に…

秋夜長物語⑧ーリリジョンズラブー

第七章 律師はこの返事を見て心浮かれる。 まだ逢ってもいないのに逢瀬の後の別れのつらさを思いやり、山へ帰ろうとの心は全く起きない。暫くはここに留まって、せめて遠目にでもあの梢を眺めて暮らしたいとさえ思うが、それはさすがに節度を欠く行いだろう…

秋夜長物語⑦ーリリジョンズラブー

第六章 聖護院に戻った童は、梅若の許に伺う。 「梅若君、昨夜あるお方から文を預かってまいりました。 いつぞやの夕べ、雨の中を花の木陰に立ち出でなさったことがございましたでしょうか。その折、垣間見られた数寄人がおりましたのでございます。君の美し…

秋夜長物語⑥ーリリジョンズラブー

第五章 律師は夢に現に現れた梅若の面影に、まどろむことも起き上がることもできず毎夜を過ごし、昼は昼で悶々とした日々を送っている。 何か手掛かりはないだろうか。 一人の旧知を思い出す。 「あの御仁は確か聖護院の近くに住まわれておったような。」 詩…